〈蠢く瞳〉-13
『……上がって行ったか?』
『イヒヒ…元気に走っていったぜ』
一階の部屋に隠れていた男達は、ぞろぞろと姿を現した。
いつもの男達の他に、カメラを持った男が三人増えている。
十人に迫る男の集団、皆がお揃いの、白い無印のTシャツを着て、青いジャージを穿いて、頭からストッキングを被っている。
作業着を着ていた男も、額の付けボクロを取り、他の男達と同じ格好へと着替えた……多少の体型の差以外、もうどれも区別はつかない。
ドアの向こうに見える田尻にVサインを送り、笑い声を噛み殺して、静かに分厚いそのドアを閉めて鍵を掛けた。
夏帆(早くボール持っていかないと……また文句言われるな)
スカートの中を覗かれてたのも知らず、急いで階段を駆け登り、一階と同じ造りのドアを開けて部屋を覗いたが、そこには何も無かった。
夏帆(二階……何も無いじゃない!?)
全ての部屋を覗いたが、どれももぬけの殻。
しかも、この塔と宿泊施設を繋ぐドアと非常階段へのドアには、鎖が巻かれて南京錠が掛けられている……と、階段の下から、荒い息遣いが聞こえてきた……それも複数………。
夏帆(誰…だろ……?)
テニス部員達が、ボールを取りにきたのかと思ったが、どう聞いても女性の呼吸音ではない……低い男の呼吸だ……。
夏帆「!!!!」
階段に駆けた夏帆の瞳には、見るからに異常な男達が階段を登ってくるのが見えた……ストッキングを被って顔の識別を不能にし、笑いながら近付いてくる様は、紛れも無く変質者そのもの……。
夏帆「ひぃッ…………!!!」
悲鳴をあげようとしても、突然の恐怖に舌は固まり、声帯も固着したまま……二階に逃げ道がないのは明らか。僅かな望みを賭けて、夏帆は三階へと駆け登った。
夏帆(な…何よあの人達?……何なのよ……? )
今見た光景が現実とは思えず、軽いパニックを起こしながら息を切らせて三階に駆け登り、ドアを開けると、右側はトイレとバスルームになっており、二階とは造りが違っている。
そして、左側に一つしかないドアを開けて、中に飛び込んだ。