〈蠢く瞳〉-11
『おぉ、来たなぁ?』
『夏帆ちゃんの御到着〜!』
“待ちに待った”合宿の日。
テニス部員達を乗せたバスが、スポーツセンターに到着した。
町外れとはいっても、学校からの距離はさほどでもなく、バスでなら30分もかからない。
施設に繋がる別棟、その塔のような三階建ての建物の部屋から、男達はバスから降りてくる少女達を見下ろしていた。
『うへへ……何も知らないで来たか』
少女達の群れの中に、夏帆の姿を見つけた。
ジャージ姿で大きな赤いスポーツバッグを肩に掛け、有海の後をパタパタとついていく。
『手筈はいつも通りだな……』
『さて、と…田尻様からのケータイを待つか』
到着したら、すぐに練習を始めるのも、選手の肩書きのついた部員は、テニスウェアを着用するのも、予め“決められて”いる事だ。
全ての少女達を飲み込んだ、この校舎のような建造物と、ここに巣くう奴らが欲しているのは、ただ一人の美少女のみだ……。
有海「やっぱり似合う……可愛い……」
夏帆「え?そ、そう……嬉しい……」
体育館の、ステージの横に設けられた更衣室。
まだ誰も来ていない更衣室で、二人は早くも着替えていた。
有海も夏帆も、選手の証のテニスウェアを纏い、互いの姿を見つめ合っていた。
ユニホームも白、ソックスもシューズも白。
純白を纏った夏帆の姿は、まさに天使のような美しさと目映さだった。
『へえー、早いのね。さすが選手になると、やる気も違うみたいね』
夏帆を快く思っていない先輩が、厭味を言いながら更衣室へと入って来た。
二人の時間は、脆くも崩されてしまった。
『そうそう、井川さん。田尻先生が呼んでたわよ。ロビーに居るはずだから』
なんとも素っ気ない言い方に、有海は顔を強張らせたが、夏帆は気にもしないといった風に、更衣室から出ていった。
夏帆(秋の大会見てなさいよ!二度とあんな口利かせないから!)
有海の存在は、夏帆の心を強くさせていた。
もう厭味などに負けはしない……ただの弱い少女ではなくなっていた。