最後の夜・前編-10
その夜もロイが来るのを窓を開けて待っていた。
ほどなくして窓枠に陽に焼けた大きな手がかかり、ロイが入ってきた。
「ロイ!」
「こんばんは、お姫様」ふざけた口調で言うので笑ってしまった。
ロイがふと1点に目をとめて指を指した。
「ガーネット、あれは?」テーブルの上に置いたままのドレスの箱だ。
「あ!あの…婚礼用の…ドレス。明日までに試着しなきゃいけないの…」
ガーネットはばつが悪そうにつぶやいた。
私ったらあんなとこに置きっぱなしにして…!!
ロイは少し逡巡してつぶやいた。
「着てみて?」
「えっ!?」
「ガーネットのドレス姿見たい…」
結婚式当日に見る勇気は無いしな……
「でもっ!」
「見たいんだ」優しく微笑んだ。
ガーネットは迷ったが「分かったわ」と了承した。
他の男との婚礼衣装なんてロイに見て欲しくなかったが、ロイが見たいと言うなら断れない。
「ロイ、後ろ向いてて…」
「あぁ」
後ろを向くと、服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえる。
いま振り返ったら、ガーネットの生まれたままの姿が見れるんだよな…
ガーネットが困るような事はもうしないと心に決めたのに、性懲りも無く愚かな考えに囚われる。
「あの…ロイ、チャック閉めてくれない?」
「もちろん」
振り向くと、純白のドレスに負けない白い背中がむきだしになっていた。
邪魔にならないように髪をアップにして片手で押さえていて、腰からうなじまで美しい背骨のラインが丸見えだ。
片紐のないデザインのようで、もう片方の手で胸元を押さえている。
あぁ…本当に、本当に綺麗だ…
少しくらい許してくれるだろう?
ロイはゆっくりチャックに手をのばし、背をかがめた。
ぬるっ…
「えっ…!?」
チャックを上げながら舌を伸ばし、背骨のラインに沿ってゆっくりと舐め上げる。