投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

過ぎ行く日々、色褪せない想いの最初へ 過ぎ行く日々、色褪せない想い 2 過ぎ行く日々、色褪せない想い 4 過ぎ行く日々、色褪せない想いの最後へ

過ぎ行く日々、色褪せない想い-3

**――**

 時計が六時半を指そうという頃、あの男がやってきた。
 グレーのワイシャツと黒のスラックス。整った髪形は見間違えるはずがない。
 彼がインターフォンを押すと、しばらくして彼女が出てきた。
 美琴は笑顔で彼を招き入れると、男が後ろ手でドアを閉めた。
 やがて二階の彼女の部屋の明かりが点く。
 悠はいけないことと知りつつ、ブラインドの隙間からその様子を見ていた。
 机に向かう彼女と、その脇に立ち指導する彼。
 参考書を指差す彼女に、彼は膝立ちで同じ視線になり、親身になって教えているのがみえる。
 時に談笑を交え、軽く彼女をあしらい、笑い合う姿。
 階下で母親が夕食の準備を告げるまで、悠はそれを見ていた。

 箸を伸ばしながらぼんやりと考える。
 家族の会話もテレビの雑音で紛れ、没頭するには十分な環境だった。

 自分がしていることは明らかな覗き行為。
 倫理に反している。
 精神衛生上、悪影響を及ぼす。
 けれど、やめられない。
 あまりに気になった彼は、彼女と同じく相模原に通う同窓生に尋ねたこともあった。
 井上京子。彼女とは中学からも一緒であり、美琴との共通の知り合いだった。
 学校での彼女の様子に変化はない。彼氏がいるようにも思えないが、最近大人びたのも確か。それと、この前に風紀の先生に呼び止められて小言をされたとかも。

 ――遊んでいるかも?

 容姿、口調、立ち振る舞いから、中学の頃同級生にお公家様とか、美琴の君とからかわれた彼女だが、別段真面目というわけではない。
 ドラマや流行を追うこともあるし、音楽のジャンルも男性アイドルユニットが大半。
 つまり、普通の女子高生。だから、年相応に背伸びしたりするのも、ごく自然のことでしかない。そもそも、美琴と悠はただの幼馴染の仲。家が向かい同士で、たまたま仲が良いだけで、将来を約束したわけでもない。
 彼女が自由意志で誰かと恋仲になったところで、それをとやかく言う資格は誰にもないのだから……。

 夕食を終えた悠は、濡れた髪をクシャクシャタオルで拭きながら自室に戻る。
 既に家庭教師は帰ったであろう時間。美琴の部屋には桃色のカーテンが敷かれ、部屋の様子はわからなかった。
 彼はベッドの上に投げ捨てていた鞄から英語の教科書を取り出し、明日の予習を始める。
 彼女のことは気になるが、英和辞書に向かっている間はそれも忘れられる。

**――**

 山陽高校の柔剣道場では、気合の篭った掛け声が行交っていた。
 悠もまた練習に勤しんでいたが、最近は上の空なことが多く、つい最近も顧問の大谷に叱られたばかり。そして、その日も……。
「――!?」
 稽古の最中、道場の隅で髪を結わえていた女子部員を見たとき、彼は気を取られていた。
 次の瞬間、頭に衝撃を受けた悠は、バランスを崩した拍子に無様にしりもちをつく。
 畳の上のおかげでそれほど痛くないが、面を打ち込んだ後輩の田丸弘樹が驚いて駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか? 先輩!」
「なに、たいしたことないさ……。いやいや、お前も強くなったな。うかうかしてらんねえ……」
 軽口を叩いて誤魔化す悠だが、弘樹は納得がいかない様子で面を取り、複雑な表情で彼を見ていた。
「なんだよ。まだ練習終わってないんだから……」
「でも、先輩……」
「うっせーっての……」
 悠は竹刀で後輩の頭をポンと叩くと、言葉とは裏腹に防具を外す。
「先輩?」
「すまん、なんか頭痛いから帰るわ。大谷にはよろしこ言っといてな」
 隅っこで邪魔にならないように黙想をすると、道場に一礼をしてから部長に早退の旨を伝える。
 悠は更衣室にゆくと、そそくさと制服に着替えた。
「俺、何やってんだろ……」
 精神の修養を目指す武道において、心を乱したまま立ち去る自分。
 こればかりは草津の湯でも癒えないものと言い訳をしつつ、唇を噛んだ。


過ぎ行く日々、色褪せない想いの最初へ 過ぎ行く日々、色褪せない想い 2 過ぎ行く日々、色褪せない想い 4 過ぎ行く日々、色褪せない想いの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前