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過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

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過ぎ行く日々、色褪せない想い-28

 約一分後、目を開けた彼は、さっさと防具をしまうと、飛び出すように道場を後にする。が、それを弘樹の手が阻んだ。
「なんだよ。さっきも言ったろ? 今日は用事があるんだよ」
「先輩、昨日、和子と、俺の彼女とどこに行ったんです?」
「え? 和子ちゃんと……? あ、いや、あれはだな……」
「答えてください」
「答えてって、そんなたいしたこと……」
「たいしたこと? 人の恋人とデートしてたくせに、よくいいますね!」
 その言葉に、道場に居た部員全員の視線が彼らに向く。
 あまり色恋沙汰に縁のない部員達は、気の無いフリをしながらも、しっかりと聞き耳を立てており、先ほどまでしていたおしゃべりもちいさくなる。
「デートなんて、そんな大層なもんじゃない。というか、誤解だって、俺は別に和子ちゃんを好きなわけじゃないし」
「好きでもない子の肩を抱くんですか?」
「いや、だから、少し黙れよ。誤解だって。それに、大声で言うことじゃないぞ」
 妙に敵愾心を持っていた理由はこれかと思い当たる悠だが、弘樹の様子をみるに、聞く耳を持ってくれそうに無い。時計は無常にも時を刻んでいるのにだ。
「今は言えない。だけど、いつかきっと和子ちゃんが教えてくれるさ。だから、今は彼女を信じろよ。それしか……」
 言いかけたところでボディに重い一撃がくる。
「何が信じろだ。バカも休み休み言えよ。先輩、俺は昨日見たんだ。二人が一緒に居たところを。電車で寄り添ってたところもな! なんだよ。後輩の彼女を奪うなんて最低だ!」
 お腹を押えて蹲る悠の脇を、弘樹はずかずかと去っていく。
 まさかここまで直情的だとは思わなかった彼は、未だ立ち上がれずにいる。
「先輩! 大丈夫ですか?」
 よせばいいのに和子がやってくる。部員達の視線は「やっぱり」と無言の圧力をかけてくる。
「大丈夫。っていうか、誤解されるし、もういいよ」
「でも、弘樹君が……こんなこと……」
「いや、いいさ。それに、辛いのはアイツだって一緒。痛い程度、なんともないさ……」
 ようやく立ち上がる悠は、無事をアピールするが、重苦しい痛みで身体がえびぞりになっている。
「先輩、肩かします?」
「大丈夫。そんなことより、弘樹のこと……いや、今は少し一人にさせといたほうがいいのかな……」
 どうすればよいのか?
 彼自身わからず、ただ目の前のことを盲目的にこなすべきと、和子の手を断って、駐輪場へと向かった。

 時計が七時半を過ぎる頃、ようやく家につく。向かいの窓を見ると、しっかりカーテンは開いており、気付いた美琴が手を振ってくれたのが嬉しい。
 早速二階に行き、美琴の部屋を見る。
 彼女を遠巻きにうろつく牧夫は哀愁すら感じられる。
 ――よし、何もない!
 悠は彼女の無事を確認すると、言い訳程度に勉強を始めた……。

**――**

 どうすれば美琴を牧夫から守れるか。
 悠にとっては至上命題なわけだが、最近は次の一手が打てずにいる。
 唯一相談できるはずの和子も、弘樹との一件があってからは相談しづらく、たまに二人が部室で答えの出ない言い合いをしているのを聞くと、心が痛くなる。
 今の遅延措置がいつまでも有効だとは思えず、焦り始めていた。

 その日の部活には、和子の姿が無かった。そして、弘樹の姿も。
 先日のことが尾を引いているのだろうと予想する悠は、やや苦い気持ちになり、さらに好奇の視線を向けられている気がした。

 部活を終え、帰宅しようとした悠だが、駐輪場に自転車が無い。
 移動されたのかもと周囲を探すが、やはりない。
 しょうがなく電車で帰ることにする悠は、いつもと違うほうへ歩き出す。
 時計は既に六時半を過ぎた頃。家庭教師の時間にはどんなに急いでも間に合わない。だが、最近の美琴なら、きっとカーテンを……。


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