過ぎ行く日々、色褪せない想い-2
五月の新人戦。
彼は彼女に応援してくれるようにメールをした。
彼女は久しぶりの誘いに喜んでくれた。
けれど、市の体育館に彼女の姿はなかった。
彼女の親戚の不幸が重なったため、来られなかったそうだ。
そのおかげなのか、邪念の無い彼は見事準優勝を果たした。
彼を称えた盾は、今も机の引出の中にしまってある。
梅雨の頃、彼女からメールが来た。
喜び急いで携帯を開いたのだが、そこには進学に悩む旨のメール。
高校二年。大事な時期。
頭ではわかっているものの、一人盛り上がっていたことと、五月の裏切りが重なり、彼はつまらない返事をした。
『美琴の人生なんだし、自分でしっかり決めろよ』
幼心に結婚を約束したことも、今は遠い昔のこと。
七月の頃、ついこないだのことだ。
彼が部活の帰りで遅くなったある日、江成家の前で美琴と彼女の母、それに知らない男が談笑していた。
暗がりでよく見えなかったが、着こなされていない上下のスーツにオシャレな眼鏡、第一ボタンの外れたワイシャツでは、とても社会人とは思えない。
彼は彼女達に会釈をすると、江成家を後にした。
すれ違うとき、香水の匂いがしたのを覚えている。
――誰?
――あら、悠。部活? 大変ね。
――誰?
――先生? ウチの家庭教師だよ。菅原牧夫さん。大城大学の人なんて。
――ふうん。
――うん。
――なぁ。
――あんね。
――なんだ?
――そっちこそ。
――美琴から言えよ。
――うん。あんね、大城大学受けるつもりなん。
――大城大学ねぇ。お前ならもっといいとこねらえるんじゃないの?
――うん。でも、決めたん。牧夫さんの話を聞いとったら、なんやかうらやましいなってきたん。ウチ、がんばるね。
――その、牧夫って奴が楽しいんじゃないの?
――何その言い方。感じ悪いわ。
――わりい。俺疲れてっから、んじゃな。
――ちょっと、悠ってば! 話はいいん?
――ああ、また今度……。
――まったくもう……。
振り返ることなんてできない。あの日の彼は、玄関で姉の志保とすれ違ったとき、「あんた大丈夫?」と心配されたくらい酷い顔をしていたから。