過ぎ行く日々、色褪せない想い-19
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証拠となるメールは保護されており、パスワード無しでは削除ができないようにしてある。
悠はいくつかのメールを見て、意気消沈していた。
和子は間違いなく遊び相手だった。それは、例の女も同じ。
そして、今は美琴がその毒牙にかかりつつあることも。
「わかりました? 菅原牧夫のことを」
「あ、あぁ……、あぁ……」
愕然としたのは何も牧夫のことだけではない。幼い風の彼女が既に性行為を終えていることもそうだった。
「今はメール来ないですけど、でも、多分……」
「やめろ!」
「やめろといわれれば黙りますけど、先輩はそれでいいんですか?」
「いいさ、彼女の、美琴がアイツを選んだのなら……俺は」
「全然よくなさそうですね」
「……」
二の句が出ない。どうしたいのかなどはっきりしている。美琴を助けなければならない。
しかし、そのためになにができるのか?
本人に直接、「アイツは悪い奴だ」と伝える? 頷いてくれるだろうか?
どうせ牧夫がしらばっくれておしまいだ。和子と関係が繋がっていればまだしも、既に終わっていることなのだし。
「俺は……」
喉が渇く。そして、辛い。
「……たい……」
かすれた声。
「たすけ……たい!」
けれど、明確な意思。
「当然です。男はそうじゃないといけません」
きっぱりという彼女は悠の隣に座ると、彼の頭を強引に膝の上に乗せる。
「おい! 和子ちゃん?」
「今だけです。ちょっぴりかわいそうだから……」
「そんなこと……」
やわらかい彼女の太もも。そして、汗の臭い。初めて身近に感じる女の子。自然と息が荒くなるが、それは美琴のこととは無関係。
「先輩、復讐しましょう……」
彼女は力強く言った。
「ああ……」
悠は上の空のまま、応えた。
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家庭教師、菅原牧夫。
彼女の話とメールの内容によると、複数の生徒に手を出し、その後、知り合いに売春をさせていた。
手口は悪質かつ、単純。
セックスの後に理由をつけて撮影し、その写真で脅迫、他の男に紹介する。
狙われるのは大人しい子、世間体を気にする子、またはそういう親御を持つ子と推測される。
和子は彼らが行動を起こす前に気付けたおかげで事なきを得たのだろう。もし、気付かずにいれば、彼女もまた別の男に売春を強要されたのかもしれない。
「まずは、美琴さんを守らなければなりません」
放課後、二人だけの剣道部部室で、和子と悠は作戦会議を開いていた。
「ああ。でも、どうやって?」
「そうですね。それとなく注意ができればいいんですが」
「やっぱり直接美琴に言うべきじゃないか? 和子ちゃんのメールもあれば、多分……」
「無理ですよ。多分美琴さん、牧夫のことを信頼していると思いますし、いきなり私達がメールを見せたところで、信用なんかしてくれません」
「でも、メールなら証拠に……」
「メールなんていくらでも偽装できるんですよ。既に牧夫だってアドレスを変えてますし、携帯も機種変更済みだと思います。それに、差出人を確認するなんて、警察沙汰じゃないと無理です」
「そう」
これが探偵物の映画やドラマなら、携帯の履歴を契約会社に簡単に調べてもらえるのにと、がっかりしてしまう。