過ぎ行く日々、色褪せない想い-18
再び母のいない日中に、彼が来た。
和子は神妙な顔つきをしながら、セックスをするのかを聞く。
牧夫は自分が嫌いになったのかと聞くので、そうじゃないと否定した。
その後も何か言葉を交わしたが、覚えていない。
とにかく、相手に自分が何かいつもと違う様子だと悟らせた。
そして、薬局で買ったあるものを机の上に見えるように置いて部屋を出た。
露出した紙の部分はマーカーの赤で薄く滲ませておいた。
シャワーを浴びるフリをして、隣の父の書斎に隠れ、壁に耳を着ける。
しばらく何かを物色する音がした後、ようやく例のもの気付いたらしい。
「ちっ……、まじかよ……」
つまらなそうに舌打ちをして、嫌悪の感情の驚きの声。
普段の明るく、優しさに溢れたものではなく、遊び方を失敗したという、そんな言い方だった。
和子はその場にへなへなとへたり込み、しばらく声を出さずに泣いた。
異様なことと思いつつ、彼に身体を預けた。
上っ面の愛してるの言葉と珍しくゴムを使ってのセックスでも、男を知る彼女の身体は反応した。そして二回いかされた後、シャワーを浴びてきて頼んだ。
自分でも驚くほど冷静にことを始めた。
彼のズボンから携帯を取り出し、メール設定をする。
転送設定。メールが彼女の携帯に来るようにした。
既に牧夫の正体もわかっているというのに、どうしてそんなことをするのか? これから知るであろう真実は、彼女にとって残酷であるとわかりきっている。
それでも確かめずにはいられなかった。
そして、できればその女こそ遊ばれている女であり、自分が本命であると、薄い希望を持っていたから……。
――カテキョの子が孕んだっぽい。マジでやべーよ。
――自業自得だろ。またカンパとか無しな。
――そんなこというなよ。この前の子食わしてやったろ?
――あの子はよかったけど、お前がやりすぎてがばがばじゃん。
――今回の子、ブスだし、やだな。
――でも、やわらかいし、中学生だ。それだけで価値があるって。
――あと半年で産廃になる子なんていりません。
――くれるなら、俺がもらうぞ。一度食べてみたいし。
――よし、売った。十万な。
――負けろよ。八万。
――はいはい。わかったよ。たく、大損害だ。
自分以外にも被害者がいるのかもしれない。けれど、それはどうでもよい。
そして、自分は自分の知らない場所で貞操を売り買いされているらしい。
おそらくその八万は、堕胎の費用なのだろう。
和子は陰性結果の出た検査紙を机の上に置き、その後、家庭教師を辞めてもらった。
訳は話さず、ただ、疲れたからと。
沈んだままの気持ちで受けた受験は大失敗。その後、滑り止めに受けた山陽高校では自分を知る元クラスメート達がいたが、陰惨な気持ちの前に彼女らのひそひそ話など、小鳥のさえずりに過ぎなかった。
まだ処女であろう女子をふっと鼻で笑った後、気味悪がられてそれも無くなった。