過ぎ行く日々、色褪せない想い-17
「そっか」
「先生は?」
「俺は、最近フラレタ」
「へぇ、どうしてです? 先生カッコイイのに」
「ありがと。でもさ、なんか浮気されてて……」
「浮気? 信じられない。先生みたいないい人がいて浮気するなんて……私なら絶対先生に尽くすのにな!」
冗談ではなく、本気だった。もちろん、自分のような暗く、小さく、垢抜けない中学生など相手にしてくれないとはわかっているが。
「ありがと、和子ちゃん……」
優しすぎて窮屈。
それが別れの原因らしい。
身勝手な女の言葉に激怒する和子と、うなだれる牧夫。
自分を立ち直らせてくれた牧夫が悲しむ姿に、いつしか涙が溢れていた。
気がつくと、和子は彼を抱きしめていた。
頭をなでたとき、彼も彼女のほうへとよってきた。
昼の頃。父は会社で母はパート。
二人きりの空間は暑く、熱く、お互いの気持ちが香り、そして……。
「和子ちゃん!」
牧夫は男と女について教えてくれた。
初めてを捧げることに悔いなどない。むしろ自分のような半端者を一人の女としてみてくれていたことが嬉しかった。
週三回の勉強のうち、母がいない日は愛を紡ぐ日。
カーテンを引き、締め切った部屋で肌を重ねる二人。
玉のような汗を競って舐めあい、受け入れ、快楽を教えられた。
愛し合ったある日のことだった。
シャワーを浴びにいった牧夫の、脱ぎ散らかしたズボンが低く振動する。
携帯がなっているのなら知らせてあげようと、和子はズボンを取った。
ポケットから取り出したとき、スライド式のせいでメールの件名が見えた。
『きょうこりんめえる』
顔文字の続くメールは男からのものとは思えない。和子は言い知れぬ不安に駆られ、恐る恐るそれを開く。
今日バイト終わったらあそびいこー。
生理終わったし、たっぷりできるよ〜!
――生理? たっぷりできる? なにを……。
思い当たることなど一つしかない。下腹部の違和感が重くなる。
こぽっと音を立てて流れる牧夫の精子を、和子は慌ててティッシュで拭く。
下ではまだシャワーを浴びているらしく、水の音が聞こえる。
胸にぐっとこみ上げる酸味。必死に飲み込みながら、混乱を抑えることができない。
彼女はとりあえず既読を未読に戻すと、彼のズボンの中にしまった。
その日は気持ちが悪いといい、帰ってもらった。
あの男は自分を騙している。いや、そんな大層なものではない。単なる性処理の道具。ダッチワイフでしかないのだろう。
和子は何度もシャープペンの芯を折り、果てはHBを三本折って、ノートを三ページ破り捨てた。
そして、薬局に行った。