過ぎ行く日々、色褪せない想い-12
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「おら、もっと気合いれろ!」
「おっす! 先輩!」
怒声に似た掛け声が行き交う剣道場。
同部の快挙は既に他の生徒の知るところにもあり、放送部や写真部、新聞部などがヒーローを求めてやってくる。
それも相成ってか、試合が終わって初めての部活は、非常に活気のあるものだった。
道場の隅で取材を受ける悠は、ぎこちない作り笑いでインタビューを受け、快挙を表彰する盾と賞状を手に、フラッシュを浴びる。
午前中はというと、クラスメートからなんやかんやとはやし立てられ、中には熱い視線を向ける女子もちらほら。
道場の周りにもミーハーな女の子が多く、マネージャー希望と言っていたが、部員兼マネージャーの和子が年季が入りすぎて異臭を放つ防具を片手に追い払っているのが見えた。
女子数人から睨まれていたが、彼女としてはむしろ善意だと話していた。
――そういえば、二人とも仲いいな……。
昨日の唐突の告白のあと、その後は見ていない。
ただ、今の雰囲気から、ただのお友達というわけもなく、何かあったのだろうと邪推してしまう。
――昨日は散々いびられたし、このツケはでかいぞ……。
悠が竹刀を握り直すと、パチパチシャッターを切られる。
「こっち見てください。もう一枚いきます……」
アナログなカメラとデジタルカメラを交互に使うカメラマンは、真剣な表情で臨んでおり、むしろ彼のほうが気負ってしまう。
「……ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。これで入部希望者が増えるといんだけど……」
「そうだね。でも、なんかこう、華が無いから」
「おいおい、言うなよ、そういうこと。たしかに剣道って地味だけどさ……」
「いや、被写体がさ」
「被写体? 俺?」
「うん。なんか思ってたのと違うんだよ……」
面と向かって華が無いといわれるのはさすがにカチンとくる。精神修養なんのその、悠は彼を睨みつける。
しかし、当のカメラマンは飄々としており、さらにカメラを向けるので、悠は反射的に笑顔を作る。
「それ! それがなんか違うんだよね。なんかさ、高槻君、作ってない?」
「何を?」
悠は、一瞬、怒りも忘れてぎょっとする。級友達にもばれていないはずの内面が、初めて会ったばかりの写真部の彼に見抜かれる。それほど自分はわかりやすい性格なのかと悩んでしまう。
「いや、何をって言われるとわかんないんだけど、でも、写真ってそういうのわかるよ。ほら、結局写真って一瞬を保存しちゃうでしょ? だからさ、波みたいな感情とかも全部固めちゃうんだよね……」
「波みたいな感情を固める……」
「雰囲気をそのまま保存するっていうのかな?」
それはおよそ精神統一とは違うこと。怒りや嫉妬、悲しみ、欺瞞に蠢く彼の気持ちは常に波打っている。
それは否定しない。
そして、ファインダー越しにそれを見るカメラマン。
彼はその一瞬一瞬を脳裏で現像しているのかもしれない。
そこに浮かび上がる自分は優勝の盾で素顔を隠す、惨めな泣き虫なのかもしれない。
「そういや、名前聞いてなかったな。俺は……、もうわかってるか」
「僕は写真部の佐藤、佐藤重明ね。二年三組ね。大槻君とは多分、今日が初めてかな? 話したの」
「ああ、多分」
おそらくこんな機会でもなければ接することも無いのだろう。
ただ、彼のいう言葉に、悠はなぜか興味を持ってしまっていた。
「今度、写真の撮り方とか教えてくれよ……」
「え?」
「なんとなくさ、気になって……」
写真に興味があるわけではない。重明が打ち込んでいる写真に興味がある。彼はファインダー越しにどのようなものを捉えているのか。それが知りたい。
「いいけどさ。気が向いたら部室に来てよ。木曜なら遅くまで現像室に居るし」
「ああ、多分いく。うん、きっとな……」
「そのときは珈琲ぐらいだすよ」
手を振りながら去っていく彼。その前にせっかくだからと、女子部員達にパシャパシャとシャッターを切っていたので、そのうちそれも見せてもらおうと誓う悠だった。