長い夜(六)-1
<扉>
秋のブライダルに向けてのイベントが終わるまで真人はおとなしく待っていた。定例のメールに遼子からの返事が届かないとしても、遅番で最終まで待つ店に顔を出さなくても、おやすみメールすら返って来なくても真人は毎日いつも遼子を気遣ったエールを送り続けた。
全国的に遅い梅雨入りが発表された六月中ごろの日曜日、前日の打ち上げを終了した遼子は目覚めてすぐに時計を見て、すでに夕方近いのに我ながら驚いた。
さいあく・・・久しぶりの解放の休日も終わりが見えてる・・・。
まだ鈍い頭で携帯メール受信フォルダを見るとずらりと真人からのメールが連なっている。未開封なわけではないが、落ち着いて読んでいる時間もなかった。改めてゆっくり読み返すと、しこりになっていた疲れが取れるようだった。ベッドに沈んだ体を起き上がらせようと身を起こした時、新着メールが届いた。
真人からだ。
「お疲れ!今日もお仕事ですか?ごはんちゃんと食べれてる?体、無理しないでください」
遼子は、真人に電話をかけた。
「遼子さん!?どうしたの?元気にしてる?大丈夫?仕事いいの?」
遼子がまだ一言も話していないのに、遼子からだと分かった真人は飛びつくように云った。
遼子は呆れたように笑いながらも、待ちわびていた真人を愛おしく感じていた。
「やっと終わった・・・。今起きたの。信じられる?死んだように寝てたみたい」
「え!終わったの?ヤッター!お疲れ様でした。今まで寝てたなんて、おなかすいたでしょ。おれ、今夜はパスタ茹でようと思ってたんだ。おいでよ!来てよ!打ち上げしようよ」
「う〜〜ん・・・・。」
まだ頭のまわらない遼子は、出かける支度を考えるのも億劫だった。
「あー、面倒だとか思ってるでしょう?んなことないって、考えてみてよ、どうせ何か食べるんだよ?買い置きもないはずでしょ?ほら、俺んちきたらそっこー美味いパスタ食えるんだよ?近所なんだからすっぴんでもOKだってば、顔だけ洗って、目を覚ましたらすぐおいでよ。いいね?来れるんでしょ?」
なんだか、説得力もあってその気にさせられた。だらだら過ごしてもいたかったが、腹が減っては致し方ない。
「ん、、分かった。じゃあ、お言葉に甘えておじゃましよっかな。。。」
遼子は立ち上がりながら云った。
真人の云うように、顔だけ洗って髪を梳いた。さすがにすっぴんに抵抗ある年齢だと自覚はあったが、すでに、夕暮れている。寝る前にまた化粧を落とす手間を考えると遼子は開き直る方を選んだ。化粧水と乳液を叩き込むと部屋を出た。