長い夜(六)-7
「あ、着替えてるしー。許可してないのにー」
「早く、早く。ウエルカム!」真人がソファで手招きしている。
遼子は、部屋の時計を探した。食事のあと何時間もキスしていたのか10時を過ぎていた。
「何、時計見てんの。まだ帰るなんて云わないでよ」真人が切なげに見上げている。
「でも、寝起きのまま、家を出てきたからなぁ、すること残ってるのよね」
「もう少しだけ、ねぇ、もう少しだけお願い」
女の子みたいなこといって甘える真人が愛おしく思えることも不思議だった。
「女の子のセリフみたいね」ストレートに意地悪く言えるのも真人に対してならではだ。
「可愛いでしょ?」真人がふざけて見せる。真人の伸ばした手に遼子も手を伸ばして抱き寄せられる。
「あと30分ね」
「帰したくない」
「30分」
「はーい」観念してあきらめた真人は時間を惜しんで遼子を抱きしめた。そんな時間は信じられないくらい早く過ぎる。あっという間の30分に身を引き裂かれる思いをしながらも、真人は約束を守って遼子を家まで送って行った。
「モデルの話、返事待ってるね」
「うん、あれね、いいよ。私で良かったら協力するわ」
「ホントに?ああ、ありがとう!じゃあまた詳しい話は今度ね」
浮かれてはしゃぐように、真人は帰って行った。
遼子は、モデルを承諾した途端にあれほど執着していたはずのキスもせがまずに帰って行った真人の夢が余程大きくて夢中なのだと理解した。自分にできる協力ならしてあげたいと、心から思っていた。