長い夜(六)-5
「な、何?」
「私ね、真人が熱出して、汗を拭いたとき、真人がとっても綺麗な体をしてて驚いたの。もし、私に絵が描けるなら描きたいっていうか、残さなきゃいけないって思うくらい綺麗だった・・・」
本人を目の前にしている実感がないのか、思い出してうっとりさえしている。
「だから・・・?」
そう聞かれて、ふと我に返り遼子は少し気まずく照れた。
「あー、遼子さん、そんなにマジマジ見てたんだぁ〜」真人は冷やかした。
「ち、違うわよ!そんなイヤラシイ意味じゃなくて・・・その、あれよ。そうよ、真人の裸こそ芸術だっていいたかったの!」
「じゃあ、僕の体は遼子さんが描いて」
「冗談云わないでよ、描けるわけないでしょ」
「僕だって冗談じゃないよ、自分の裸を描きたいなんて、そんなナルシストじゃないよ!・・・いや、待てよ。じゃーさ、僕も裸で…ってどう?」
「どう・・・って?」
「裸で遼子さんを描く!」
「バッカじゃないの?」呆れて、笑いだしてしまった。
真人は、それもアリなんだけどなぁと、マッチョなポーズをしてさらに遼子を笑わせた。
「ま、すぐに返事は期待してなかったから。でも、締切が八月末なんで、そんなに待てない。遼子さんの今年の夏休みも独占させてほしい。だから、考えて返事して」
真人の真剣な願いに、遼子も素直に頷いた。
「さて」と真人は遼子に微笑みをむけた。
「ん?」と小さく首をかしげて遼子も微笑み返した。
「そろそろ約束を・・・」
約束・・?遼子に記憶がよみがえった。
「そか、そうだったね。うん、いいわよ」遼子は静かに目を閉じた。
だって、確かに約束したし・・・。ここであがいても大人げないと思った。
目をつぶった遼子に真人の気配が近づく。肩にそっと手が添えられ、軽く引き寄せられる。バランスが崩れそうになると大きな胸にすっぽりと抱き寄せられた。じっと抱きしめられたまま時が流れた。