長い夜(六)-3
「保護者って、遼子さん? そりゃー遼子さんのお許しがあれば・・」
「じゃあ、一緒に飲んでよ。あ、今日だけよ!」
「やった!」急いで持ってきた真人のワイングラスに今度は遼子が注いだ。
「じゃ、改めて。今日は素敵なサプライズ本当にありがとう」
「遼子さんの喜びは、僕の喜び」
マグロとタイの刺身をカルパッチョに、サラダは温野菜でゴマドレ。
パスタはガーリックとチリのスパイシーなトマトソースに茄子やゴーヤが
入ってる。香ばしいフランスパンとチーズ。どれも遼子の好みでとても美味しかった。
一口ごとに美味しいと満面の笑みで見つめられると、真人も至福に満ちた。
料理が片付くのと共に、ボトルも一気に空になった。よく冷えていた白ワインのスッキリとしたのど越しとフルーティな自然の甘味は料理に良く合った。
二本目を抱えてきた真人は得意げに、
「これも、イケルよ」と遼子に差し出した。
赤ワインは常温で軟らかな口当たりと熟成された深い澱のうま味が不思議なほど遼子の好みだった。
渋みも少なく飲みやすいこともあって、グラスはすぐに空になった。真人は目ざとく注ぎ足す。
「ああ、だめ。美味しすぎて飲みすぎる・・・酔っちゃうよ」
「いいじゃない、イケルでしょ?遼子さんのために選んだんだもの」
「真人さぁ、もうホントに信じられない。どうして何もかも私の好みわかっちゃうわけー?」
常温の赤ワインの深みは、すでに二人で空けた一本目のワインの酔いを引き寄せるかのように体中を巡りはじめた。
遼子は食器を片づけ始めた真人を手伝おうと立ち上がったが、ゆっくりしててといわれて、部屋を改めて見回した。初めて訪れた夜は真人の熱ばかり気にして部屋のレイアウトなど鑑賞している余裕はなかったし、あの日は真人自身も整頓するどころではなかったのだから。そう思うと、今日初めてゆっくりと見渡す。
真人が寝ていたベッドは折り畳みしきのソファになっていた。デッサンのキャンバスがいくつも大小重なって立てかけてある。料理が片付くと心なしかインクや油の匂いもする。絵の具の付着した机は、それ自体が作品のようにも見えた。
大きなスケッチブックが数冊無造作に、いかにも重そうな専門書の上に置いてあった。
そのうちの一冊を手にして開いてみた。
鉛筆の下絵デッサンは一目で遼子をドキリとさせた。
タオルで手を拭きながら、真人が近づいてきた。