長い夜(六)-2
厚い雲が覆っている街は、すっぴんの遼子に優しく感じた。
真人のマンションまで歩いても15分から20分で着いたが、マンションまで来てしまってから、自分が手ぶらなのに気付いた。
「いらっしゃい!ささ、入って」
急かされるようにして、部屋に上がった遼子の目の前にはテーブルがセッティングされていて花まで飾ってある。料理も出来上がっている様子で、いい香りが充満していた。
「なに・・?これ。どうしたの?」
遼子が誘われてから今まで、まだ30分ほどしかたっていないのに、まるで記念日のような完璧な設定。どうなっているのかと目をまるくする遼子に真人は椅子を引きながら云った。
「ようこそ。お待ちしておりました」レストランボーイのようにお辞儀して姿勢を正す。
「だってさ、遼子さんスケジュール的には昨日までって云ってたし、今日は日曜だからお休みなんじゃないかなって、準備してたんだ。驚いた?」
キッチンへ向かいながら、いたずらな笑顔で真人は振り向いていった。
「看病してもらったお礼もまだだったし」
戻ってきた真人は冷えた白ワインのコルクを抜きながら遼子に近づいて、ポンッと軽い音を立てると、グラスを手渡した。
「お疲れさまでした」
「ありがとう」素直に遼子は嬉しかった。オシャレなサプライズに心から感動していた。
向かい合った二人は、グラスを軽く触れさせて微笑みあった。
「真人は、飲めないんだよね。悪いな、私だけ・・・」
「実のところ、飲めなくはないんだけどね。一応、未成年だからぁ」
いたずらっぽく、おおげさに残念がる様子を見せる。
「保護者同伴の許可・・・ってのは?」 遼子がウインクをして見せた。