唯高帰宅部茜色同好会！（第三章）-10
「……なっ」
その音は紛れもない、ピッチャーの投げたボールがキャッチャーのミットに吸い込まれた際のものだった。
とんでもなく速い。
そしてそのボールを楽々捕れるキャッチャー。
相手にも経験者がいたか…
そして相手は、経験者をバッテリーにした…
「まずいぞ、点を取られても取り返せねー」
「…とにかく行ってくる」
ユーリはバットを持って打席に向かっていった。
ストライク！バッターアウト！
グラウンドには審判の声が響いた。
「ちくしょう！」
ユーリに続いて俺も三振。
いくらなんでもバリバリやっていたやつ相手には手も足も出ない。
せめて転がせれば…
ベンチに戻る際にキスケとすれ違った。
「まかせろ」
「……」
「なにかっこつけてんだ、あいつ」
俺は思わず首を傾げた。
だがその直後、予想外の事態が起きた。
キスケの放った打球は綺麗な弧を描いて左中間を真っ二つに引き裂いたのだ。
「キスケすごいじゃん！」
「キスケー！」
女性陣も大喜びで叫ぶ中、キスケは悠々とダイヤモンドを周回してホームを踏んだ。
「やっぱり守備はうちより酷いぜ」
ベンチに戻るなり、キスケがヘルメットを脱ぎながら言った。
ちくしょう、悔しい。
キスケに対して悔しがるときがくるとは思わなんだ。
それにしても、敢えて打撃のことに触れないのがむかつく。
「…そうか、キスケは昨日、プロ仕様でバッティングしてたからか」
ユーリの言葉で思い出す。
たしかに、キスケだけ速いボールをずっと打っていたんだ。
まあ全く当たってはいなかったが。
それで目が慣れているのだろう。
「昨日のあのボールに比べたら、全然遅いぜ」
話しているうちに、四番が凡退した。
だがやはり経験者だけあってバットには当てていた。
「…こんなこと言いたくないが、キスケの前にランナーをためるぞ。どうにかして俺達が出るんだ」
「…ああ」
そうして俺達は二度目の守備についた。