202号〜荒井恵美-2
「ほら、あんたも20歳過ぎてんだから飲みなさい!」
「い、いや、僕はジュースでいいよ。お酒って苦いし……」
「なあに言ってんの、大の男がビールくらい飲めなくてどうすんのよ! いいから持ってきなさい」
「は、はい……」
小さい頃から厳しく接してきた私には、絶対服従の甥っ子。
姉達の言うことは聞かずとも、私の言うことは二つ返事で受け入れる。
この夜の私は、その従順な甥っ子をイライラの捌け口にしちゃってました。
「はいはい、蓋を開けて。よし、乾杯ッ!」
太郎を隣へ座らせ、冷えた缶ビールを一気に喉の奥へと流し込んでいく。
「ぷっは〜、美味しい! ほら、太郎も飲んでごらん」
お酒が苦手な太郎に無理やり飲ませながら、私はひとりで勝手に旦那のことを愚痴りはじめました。
「だいたい、仕事してるからって威張りすぎなのよ。私だって仕事しながら二人の子供を育ててきたってのに」
冷蔵庫の中の缶ビールをどんどん減らしながら、もう止まらない旦那への不満。
「ちょっと、あんた、それもう空じゃないの?」
「い、いや、まだ入ってるよ」
「まだ入ってんの? さっさと飲んで早く次を持ってきなさい」
「だ、だって僕……お酒苦手だから……」
「だって僕〜じゃない! そのナヨナヨした口調も直しなさい! はい、一気に飲み干す」
私に言われ、渋々残りのビールを口に含み、苦虫でも噛んだような表情でゴクン、ゴクン、と喉を鳴らしていく太郎。
「ちゃんと飲めるじゃない。おばさん嬉しいわ〜。いつかね、こうやって太郎と一緒にお酒を飲みたかったのよ」
肩をパンパンと叩き、私は容赦なく次のビールを取りに行かせました。
もちろん太郎の分も。
お酒を飲み、くだを巻き続けて二時間あまり。
私も太郎もすっかり酔っぱらってしまいました。
「ちょっと太郎〜、あんた、さっきからさり気なく私の足や胸元を見てるでしょ〜? んふふっ、ちゃんと知ってるのよ」
スカートから覗いている太股にジッと眼を向けていた赤ら顔の太郎が、不意に私から言われて慌てて首を横に振ります。
「そう言えばあんた、彼女は出来たの?」
「い、いや、まだ……」
「大学に二年も通ってて、まだ彼女の一人も出来ないの?」
「そ、そんなに簡単には出来ないよ」
「ったく、そんなナヨナヨしてるから出来ないのよ。もっと身体を鍛えて男らしくなんなきゃ! 今のあんた、何かムッツリした感じで全然男としての魅力がないよ。それに、あいかわらずアニメばっかり見てるんだって? 姉さんに聞いたわよ。あんたねえ、それってもうオタクじゃない。漫画の女の子ばっかり相手してたら、あんた一生独りぼっちになっちゃうから」
「そ、そんなこと……い、い、いくら何でも言いすぎだよ! 僕だって、僕だって真剣に悩んでるんだからッ」
私の言葉にブチ切れ、おぼつかない足で逃げるように二階へ上がっていく太郎。
「あら……? 太郎〜? 太郎ちゃ〜ん?」
酔っぱらいながらも、さすがに今のは言いすぎたかと思い、私は急いで二階にある太郎の部屋へと向かいました。