JoiN〜EP.1〜-1
狙った獲物は逃さない。俺は俺を愛の狩人・黒髪のハイエナと呼ぶ。
俺が出会った女は数知れず、皆幸せにしてきたつもりだ。
別れを切り出す時に涙を見せなかった奴などいない。いかないで直くん、お願いよ直くんと縋る悲しい瞳は忘れられないぜ・・・
だが、男は過去を引き摺らない生物さ。別れは辛くて当たり前、その数が多い程人は強くなれるのだ。
俺の名は、日比野直行(ひびのなおゆき)
女を幸せにしようと愛を注ぐ傍ら、とある芸能事務所のマネージャーをしている。
大学を出ても別に仕事をするつもりは無かったが、暇潰しに面接に行ったら担当の女に惚れられ、拾われた。
もちろん最初は断るつもりだった。
しかし、考えてみたら学生時代に周りにいた女達は幸せにしてきたんだ。
ここらで更なる高みを目指し、芸能界という宇宙に輝く星を掴み取ってやるのも悪くはない。
そして、マネージャーになって早くも一年が過ぎて、気が付けば二年目が始まっていた。
・・・働く様になって落とせた女は、未だに居ない。
信じられない。受付の女はおろか清掃のマダムですら全くなびかないなんて・・・!
(はいはい、今日もお尻が軽いですね、日比野さん)
だとか
(若いわねぇ。あたしを楽しませたいならあと二十年は経験してからにしな)
などと、軽く一蹴されてしまいまるで相手にされない。
もう一年もここに居るのにずっとそんな有様だ。
聞いた話では、芸能事務所勤務ならタレントに口説かれるのは珍しくない事で、まあその、色々あったらしい。
それを聞いた時は芸能人でもない一般人の俺が口説けるはずもない、と流石に日が暮れるまで落ち込んでしまった。
しかし、考えてみた。
ハードルが高ければ高いほど、それを飛び越えた時の喜びは大きなものだと。
決して簡単じゃない。だからこそ飛び越えようとするのだと。
昔の人は言いました。
なぜ飛ぶのか?そこにハードルがあるからだとな。
まさか自分でも困難に対して燃えるとは思っていなかった。
今朝も負けずに、受付嬢にとびきりのスマイルを見せる。
「おはよう。ああ、失礼、君の美しさに思わず立ちくらみを起こしてしまった」
「おはようございます日比野さん。相変わらず滑ってますね」
もちろん帰ってきた時も愛の告白を忘れないが、やはりこうやって事務的な挨拶しか返ってこない。
でも負けない、必ず物にしてみせよう。
だって俺は狙った獲物は逃さない、愛の狩人・黒髪のハイエナだからな!
「ねえ、マネージャーさん。早く行こうよ」
「今は受付嬢を落とすのを最優先する。他は後回し」
うるさいな、誰だ俺に話し掛けてきたのは。
誰であろうが邪魔はさせないぞ。
ただ、1人だけ例外がいる。あの子に関しては別だ、受付嬢など話にならん。