君の瞳に恋してる・T-4
放課後、加持は化学準備室で翌日の授業の準備をしていた。
しかし、作業はなかなか進まない。
「はあ…」大きな溜め息がでた。
全然進まない…
昼休みの出来事が頭から離れないでいた。
「星野 海…」
好き好き言われたが彼女を特別扱いした事はないし、授業以外で面識はない。
むしろ、人とは距離を置いて生きてきた。
瞳の色が左右違うというだけで、まるで異形の者を見るような視線に晒されてきた。いわれのないイジメの対象にもなった…
そんな経験の積み重ねで、人とは一線引いて接するようになっていた。
こんな自分と友達になろうとする人はいなかったし、まして好きだなんて言う女性はいなかった。
しかもあの子はこの瞳を綺麗と言った――
からかっている?
暇つぶし?
さっぱり分からない…
「はあ…」また溜め息。
ちっとも進まないから帰ろう…
腕時計を見ると18時30分を指していた。
戸締りをして部屋からでると、校内はもう静まりかえっていたが、外からは運動部らしき声が聞こえる。
職員室に寄り帰り支度をし、残っている教員にあいさつをしてそそくさと出てきた。
同僚と言えど、親しく会話をした事はない。
教員用の駐車場に向かう。
センサー式の鍵を少し遠くからピピっと鳴らすと、ロックが解除された音がした。
「加持先生!!」
「!?」
車の反対側の下から、ガバっと人が立ち上がった。
「星野さん…??いったい何を…」
「えへへ、先生に逢いたくて…」海がハニカミながらつぶやいた。
「な、何言ってるんですか…」
海が車を迂回して近づいてきた。
「もう1度、キスしたくて…」
と言うと、加持のスーツの胸元を両手で掴んでぐいっと引き寄せちゅっとキスした。
「わああああ!?」
「あっはっはっはっは♪先生変な声〜」
今はまだ生徒も残っているし、薄暗いとはいえ誰に見られるか分からない。
「ちょっ…何考えてるんですか!?」
「何って…先生のことだよ。先生のことばっか考えて、授業なんて聞いてられなかったよ。先生は?」
「僕は…」
正直、授業中もボーっとしていて何度か生徒に「先生?」と声をかけられた。
うつむいて黙る加持に、海がまたキスをしようと顔を近づけた。