夏の怖い話-7
タッタッタッタッタッタッタッ-――!!
そして、この居住スペースの入口まで来てから足音はピタッと止まった!
(や、や、やばい……そこ、そこに誰かいやがる……)
僕はもう恐怖で固まり、警察に通報することすら忘れていた。
ガチャ-――
台所にあるドアが静かに開けられた。
コツッ、コツッ、コツッ-――
足音がゆっくりとこの部屋の襖のほうへ近づいてくる。
震える声が荒い息と一緒に断続的に口から漏れた。
「……課長」
「うわああっ!?」
不意に下から起き上がってきた後輩が顔を覗かせ、僕は悲鳴に近い声で叫んでしまった。
「……課長、今なんか物音がしませんでした?」
「シイッ、シイイッ!」
慌てて後輩に『黙れ』の合図をする。
そしてすぐに襖を指差し、小声で後輩に伝えた。
「そこ、そこまで何者かが来ている……」
「えっ-――!?」
「こうなりゃヤケだ。いいか、二人でゆっくりと近づき、襖を開けたら一気に飛び掛るぞ」
「わ、分かりました……」
僕は僅かな音もたてぬよう慎重にベッドを降り、後輩と二人でそろりそろりと襖まで進みました。
大きく息を吐き、まずは電気を点ける。
後輩がすかさず焼酎の一升瓶を手に取った。
そして、二人で顔を見合わせてから首を何度も縦に振り、恐る恐る襖に手をかけた。
僕はもう一度息を吐いてから、スウッと一気に襖を開けた。
「誰だああっ!!」
大声で叫びながら身構えたが、そこには誰もいなかった。
「あれ? どこ行きやがった!?」
台所の電気を点け、風呂場とトイレの電気も点けて扉を開ける。だが誰もいない。
「……誰もいませんね?」
「い、いや、誰かがここまで来たのは事実だ……だって、ほら、ドアが開けっぱなしになってる」
「ちょ、ちょっと待ってください、ここのドア、俺がちゃんと鍵をかけてましたよ」
「えっ……マ、マジかよ!?」
恐怖がさらに高まるなか、2Fにあるすべての明かりをオンにしていく。
更衣室のロッカーから女子トイレのなかまで、2F中を隈なく確認したが人の気配はどこにもなかった。
階段の電気を点け、1Fに降りてから全ての電気を入れてキッチン、バックヤード、洗浄室、客室フロアー、ここでも隈なく探したが誰もいなかった。
レジにある釣り銭も、キッチン内や倉庫にある食材も取られた形跡は全くない。