夏の怖い話-4
「な、なんで!? ああ〜、もう、しょうがないなぁ!」
この時点で恐怖心がマックスになってたんで、なくなったことを詮索するのはすぐに止めました。
仕方なく僅かに残っている紙で拭こうと思い、左にあるトイレットペーパーを見たら……
ヘッ―――!?
全身の毛が一瞬で逆立ちました。
なんと、棚の上にあったはずの新しいトイレットペーパーがそこにキッチリとはまってたんです!
鳥肌が頭のてっぺんから下へプツプツプツプツッと立っていくのが分かりました。
や、やばい……
なんか……何かヤバい気がする……
電気は点いたものの、恐怖で身体が動かない。
逆立つ毛、また、その開いた毛穴に一本一本針を差し込まれたような感覚。
これまで心霊体験など一度もしたことのなかった俺は、凄まじいパニック状態に陥りました。
何分くらいだろう……暫く経ってからようやく腕を動かせるようになったんで、右手を伸ばし恐る恐る紙を引っ張り、これまた恐る恐る尻を拭いて水を流しました。
ガーッ、ゴゴゴッ――!
普段の『ジャー、ジョポジョボ』といった音とははまるで違うトイレの水流音!
「ひえっ!」
俺はおもわず小さく鋭く叫んでからビクンッとその場で身体を跳ねあげました。
歯をカチカチ鳴らしながら急いでトイレから出ると、ふと誰かが視野の中に!
だ、誰ッ―――? だ、だ、誰かいるの―――!?
俺の視野に入った誰かは、こちらに顔を向けることなく事務所の入り口まで行き、スーッとドアを突き抜けていきました。
驚愕の光景に身体は硬直し、止まることない悪寒で歯はガチガチと鳴りっぱなし。
結局、窓から朝日が差し込むまで一歩もその場から動けませんでした。
もう仕事どころじゃなく急いで家に帰ったんですが、視野に入ってきた人物をよーく考えてみると、もしかしたら先月亡くなった上司かもしれません。
部下思いの素晴らしい上司でした。
休日なのに朝から仕事しにきた俺を労いにでも来たんでしょうか……。
それにしても……わざわざトイレットペーパーを補充してくれたのは嬉しいんですけど……怖いです。