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夏の怖い話
【ホラー その他小説】

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夏の怖い話-5

『彷徨う足音』


田舎のレストランで働いていたときの話です。

そのレストランは1Fが店で、2Fには事務所と更衣室と休憩室がありました。
2Fにはあまりお金を掛けていなくて、壁はコンクリート打ちっぱなしで天井部分にはあちらこちらに配線や金属物が剥き出したままです。
でも、配属されてきた社員が住み込みで働けるようにと、2Fの奥には狭いながらも風呂付の居住スペースが設けられてありました。

若くして店長に任命され、気合十分で店舗運営に望んだ後輩。
2Fの住居スペースに住み込みながら一生懸命に頑張っていましたが、一週間経ったある日、突然会社を辞めると言ってきたんです。

たかだか一週間で凄くやつれた感があったので、心配に思って細かく理由を聞いたんですが……結局本人は最後まで「一身上の都合です」としか言いませんでした。

人手不足のなか、その店舗にどうにかしてもう一人の後輩を送り込みました。
その後輩はまだ店長としては力量不足だったので、暫くのあいだ僕も一緒に店舗運営へ携わることにしました。

仕事上、短期間とはいえ住み込みで常勤することが難しかった僕は、片道30kmある距離を毎日車で通うことにしました。
一方、前店長の退職によって市内の店舗から配置換えされた後輩。
ずっと実家暮らしだった彼は、田舎での店舗住み込みとはいえ念願の一人暮らし生活に凄く喜んでいました。そのあまりの喜びように苦言を呈したほどです。

レストランで後輩と一緒に働きだして3日ほど経ったとき、僕はある一人の女性アルバイトの仕草が何か気になるようになっていました。
その仕草が出るのはいつも休憩中の時なんですが、いきなりビクッとした感じで斜め上を見たりするんです。
そしてその後は恐る恐る視線を下げていき、不意に黙り込んでずっと俯いたままです。
最初は「わざとやってるのかな?」とも思いましたが、さすがに毎日このような仕草をされると気になってしょうがありません。

「ねえ、天井に何かいるの?」

僕は、アホらしいとも思いながら尋ねてみました。

「えっ? あ、いや、すみません……」

彼女はそれ以上何も言いませんでした。
でもやっぱり気になったので、彼女がいない時にこっそりと別のアルバイト生へ彼女のことを聞いてみました。
すると、何ともウンザリするような内容の言葉が返ってきました。

「彼女、どうも霊感が強いらしくて……」

「霊感?」

「はい。2Fで着替えてるときに赤ちゃんの泣き声を聞いたとか、休憩中に突然上のほうから男性の話し声が聞こえてくるとか……」

「それって、ここには幽霊がいるってこと?」

「だと思います」

「君も何か変なモノを感じたことがあったりするの?」

「いえ、それはないですけど……でも、たまに嫌な感じを覚えたり、頭が痛くなったりしたことはあります。それが霊的なものかどうかは分かりませんけど」

僕は思いっきり溜息をつきました。
そんなことがバイト生の口から外にでも漏れたら、『この店には幽霊がいる』とたちまち噂になってしまう。
田舎ほど口コミでの広まり方は早い。それはよく分かっていました。
僕は来客減を懸念し、すぐにアルバイト生一人一人に釘を刺しました。
そして、近いうちに必ずお祓いすることを約束しました。
この幽霊話が本当か嘘かは別にして、そこまで徹底しなければ人の口は防げないと判断したからです。


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