誰かいるの？-1
俺がこのアパートに引っ越してきてから半年が過ぎた。
近所にスーパーがあって、バス停も近い。
家賃はそれなりだがそれだけの価値はある。
けど、この部屋には何かいる気がしてならない。
立てかけておいた掃除機のノズルが何度立てなおしても倒れる。
お風呂場の乾燥させるために椅子にかぶせておいた桶がひっくり返り大きな音を立てる。
それ以外にも誰かに見られているような気がする。
特にテレビやパソコンの画面が暗転したとき、自分が写るのはよくあるが一緒に何か写りこんでる気がする。
振り返っても誰もいない。
近頃の夏の特番“心霊特集”は突っ込んだものが少ない。
昔のネガの加工と違って機械も操作しやすく、簡単に心霊写真や動画が素人にも作れるようになったものだ。
見る人が見れば「これは作り物だ」というのがわかってしまう。
けど、それをTVで放映するのはネタに困っていて、突っ込めば番組が終わってしまうからであろう。
そして国によってその特徴が違う。
米国などは夜間撮影ということで画面が白黒か暗緑色。
そして心霊現象といわれる対象が明確に見え、すぐ近くまで迫って来たりする。
日本の場合はカラーで、画面の隅や何かの影からチラリと見える程度。
もしくはそれらしい「何かに見える」である。
つまり、俺の部屋で起こっていることは典型的なジャパニーズホラーである。
＞考えすぎじゃないか？
１０年来のメル友の最初の返事はそっけなかった。
知り合ったのは携帯電話のコミュニティサイトであった。
メル友の書き込みに感銘を受けてやり取りしている間にサイトから直接メールするようになった。
けど、直接会うことはなかった。
それでも俺は「何かあったらどうする？」とメッセージを送るとしばらくして返事が来た。
＞何か起きてから考えたらどうだ？もし、本当に何かいたなら彼らはただそこにいるだけだろ？
＞考えてみなよ。毎日うるさい隣人と変わらないんじゃないの。
＞しかも、隣のことを考えない奴なら注意したら何されるかわからない。考えようによっては居るか居ないかわからない怪奇現象より隣人のほうが脅威だって。
＞それに、危ない奴って近くに居ても何もしないけどやたら見たり意識したりしない限り因縁つけてこないし、じろじろ見てくる奴も相手にしなければいいだけだし。
＞よく祟りにあったって騒ぐのは自分からそういった危ない所に踏み込んだ奴らがほとんどでしょ？それって、人の縄張りに踏み込んで好奇心のでかき回した奴だろう。
＞―霊とかがいると仮定して―そういったのが普通見えないのに見えたというのはそいつと霊の波長が合ってしまったからじゃないのかな？
＞で、そこまでは普通にすれ違う程度のことだろう。けど、もし君が霊だとして、誰かが部屋と知らずに通り過ぎるならまだしも部屋を物色されて踏み荒らされて、その相手を認識できたら相手に怒りを覚えるんじゃないかな？
＞お母さんにベッドの下のいけない本を探されるのとはわけが違うんだから。
＞だから、君の部屋で起こってることに神経を向けすぎると相手と波長が合って余計に感じるようになってしまうんじゃないかな。
＞むしろ、考えすぎてしまう君が霊にとって脅威なのかもしれないよ。
＞とにかく、命を大事にする君のことだから零障とかはないと思うよ。
うーん、何かわかったような、わからないような。
とにかく俺はソレを意識しないようにがんばることにした。