完・嘆息の時-3
「ああ〜、食った食ったあ〜。カレンちゃんもいっぱい食べたね〜、美味しかった?」
「オバケ食べてしまったね〜、これでもう大丈夫だもんねっ!」
「うん、そうだね。ああ、お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃったよ〜」
憂鬱なのに、そばに娘がいるだけで自然と顔がにこやかになる。
柳原は、再び芝生の上にゴロンと寝転んで空を見上げた。
「風が気持ちいいね〜。ほら、カレンちゃんもごろんってしてみたら?」
「いやだ〜、汚れるも〜ん」
「じゃあさ、パパのお腹に寄りかかったらいいよ。ほら、パパのお腹さ、プニプニしてるから気持ちいいでしょ」
「プニプニ〜、バイブ〜!」
ハイテンションのとき、いつも意味不明の単語をセリフにくっつけてくる娘。まあ子供なりの冗談なのだろう。
こんな時の柳原は決まって大袈裟に驚いてみせる。それが子供に大うけなのだ。もしかしたら、この驚いた変顔を見たくてワザと意味不明の単語を言ってくるのかもしれない。
「バイブ〜!? カレンちゃん、バイブ〜、バイブ〜って何!?」
「バイブ〜はバイブ〜だよ〜」
案の定、驚いた顔は子供に受けた。これはもう鉄板だ。
ゲラゲラと笑いながら、安心感ある父親の上に勢いよくダイブしてくる娘。
柳原は小さく呻いてから、もう一度青空へと眼を向けた。
カチャッ―――
高級ホテルの最上階で、おそるおそる高貴なドアを開けて脚を踏み入れていく一人の女性。
「す、すごい……まるで映画の中にでも紛れ込んだみたい」
無駄な装飾などないシックな造りだが、至る所に上質感が漂っている。
「やあ、軽く一杯やりながら待ってたよ」
「あっ、神山くん」
奥の部屋から姿を見せたのは、神山というモデルタイプのいい男だった。
「旦那さんのほうは、平気?」
「うん、快く送り出してくれた。それにしても、神山くんって本当に凄いね〜」
「そんなことないさ。たんに親父が金持ってるってだけだよ。ねえ、こっちへきて座りなよ。飲み物はシャンパンでいい?」
「あ、うん、ありがとう」
紳士的で柔らかな神山の態度に、少し安心感を覚えながら腰をおろす柳原の妻。
差し出されたシャンパングラスを受け取り、カチンッと神山のグラスに挨拶してからゆっくりと口をつけていく。