完・嘆息の時-19
「ん……んんっ……へっ、へっ、へっくしょん!」
「ああ〜、パパ起きたねえ〜」
「えっ……? あら? なんだ?」
虚ろな眼でムクッと身体を起こす柳原。
隣にいるのは娘のカレン。
なにやら木の枝を持ってニコニコしている。
「ああっ、それでパパの鼻をコチョコチョしたでしょ?」
「ふふ〜ん、してないよ〜。んふふ、本当はした〜。だって、パパ、寝ちゃったんだもん」
「あたた、すっかり寝入っちゃってたか。それにしても……恐ろしいくらいリアルな夢だったなぁ」
「何の夢を見たの〜? アンパンマン?」
「う、うん、まあね。ママの夢をちょっとね」
「ママ〜? どんな夢〜?」
「うん? い、いや、あはは、ママがご飯作ってる夢だよ」
「ふ〜ん、ツルツルがいいねえ」
「ああ、うん、そうだね」
我が子を軽くあしらいながらも、個人の感情まで浮き出てきたリアルすぎる夢に不安を募らせる。
(ま、まさか正夢ってことは……ないよな。もしくは予知夢? ば、馬鹿馬鹿しい、んなことあるかってんだ。つか、愛璃に限ってそんなことは……な、ないよな?)
柳原は、ひとつ大きな溜息をついてから愛娘に笑顔を向けた。
「ああ〜、変な顔〜!」
「えっ、違うよ、笑ったんだよ」
「にらめっこでしょ? カレンちゃんもする〜」
「だ、だから、笑っただけだって」
「あっ! ママだあ〜!」
「えっ―――」
娘の指差す方向に慌てて顔を向ける。
そこには、大きく手を振りながらこちらに向かって歩いてくる愛璃の姿があった。
「カレン、ちゃんとパパの言うこと聞いて良い子にしてた?」
「うんっ!」
「ず、ずいぶん早かったじゃないか……ちゃんと、ちゃんと話はついたのか?」
「話……? 話って、誰と?」
柳原の言葉の意味が分からず、キョトンとした顔を向ける愛璃。
「い、いや、だからさ……あの……ほら、同窓会で久しぶりに会った」
どこかオドオドして聞いてくる夫の言葉に、愛璃はようやく今朝からの意味不明な言動を理解した。