非常シキなカンケー-2
―――*―――
「ショックだわー……」
お昼休み、飯沢恵子がランチマットも開かずにため息を全開にしてた。
「いただきます」
もちろん、そんなことに構っている時間は無い。貴重な休み時間が減ってしまうのは困るから。
「ねぇ、少しは心配してよ、友達でしょ? 親友でしょ?」
恵子は私の腕を取ってうだうだと言い出す。
中学校から一緒の彼女のことはそれなりに理解しているから、心配は不要。
「はいはい、今度は誰に失恋したの?」
恋多き乙女である恵子は一ヶ月に一回は自己失恋を行う。
発症はカッコイイ男の子を見つけると同時に起こる。
基本的に彼女が居そうな子を好きになってしまうから、毎回告白せずに失恋を重ねる。というよりも、わざとそういう子を好きになっているのかもしれない。
そして、失恋のおりには恵子を慰める会を開いて憂さ晴らしをする。
その幹事は私の仕事。おかげでそういうまとめ役が板についてしまったわけ。
「うん、あのね、竹川先生」
「え!?」
背が高く、さわやかな短髪からは整髪料の香りがする。
体育教師が常にジャージなのに比べ、身体にあったブランド物のスーツに身を包む彼のイメージはプラス補正が高い。
授業中も気さくといえば気さくなほうだし、年もそう離れていない。もちろん、お互いの立場的に真剣にお付き合いをするのなら、あと二年は待つ必要がある。
外面を見るのなら、確かに彼は彼女の失恋対象にもなりえるけれど、先ほどの授業風景からすれば、それはどうなの? とかんぐりたくなる。
「恵子。竹川先生なんてどこがいいのよ? ああいう優柔不断そうな男だと苦労するよ」
私はお弁当の甘い卵焼きをつつきながら言う。
「うぅ……、でも、ほら、結構イケテるとおもわない?」
「思わない」
即答。
それよりも、やっぱり甘い卵焼きは好きじゃない。
やっぱりだしまき卵にすればよかった。というか、甘いイコール美味しいという味覚を改善して欲しい。
「んー……」
沈んでいると思った恵子がなにやら不思議そうに私を見る。
「な、なによ?」
「いやいや、別に……」
そういいながら彼女は私のおでこに手を当てて自分のと比べてくる。
「だから、なによ?」
「いやいや、別に……」
「別にって、人のおでこ触って熱でもあるの?」
「いやいや、胡桃がなんか変だから……」
「なんで?」
「だって、いつもならあたしが失恋したらもっと親身っていうか、慰めてくれるじゃない」
「そんな、別に……。恵子を慰めるのに飽きたの」
「なにそれ、酷い!」
「酷いも酷いって、そっちこそさっさと失恋ごっこをやめて彼氏見つければ?」
「なっ……」
恵子は私の言葉に絶句してた。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。
少し、っていうか、かなり気まずくなった私はお弁当に視線を逃がした。
けど……、
「ねぇ、胡桃本当に大丈夫? なんか悩みでもある?」
「な、別にないわよ……」
「だって、変だよ」
「失恋したての人にそんな心配されたくないわ」
「いや、あたしの失恋はおやつみたいなもんだし」
ということは、そのおやつみたいなものされたのね……、アイツは……。
「平気だってば……。それより今日行くんでしょ?」
「どこに?」
「どこって、恵子を慰める会よ」
「んふふぅ……、そうこなくてはいけませんなぁ……」
「それじゃ皆にメールだしとくね……」
箸を片手に携帯を弄る私。
行儀がわるいせいか、煮付けのサトイモが転がってしまったけど、三秒以上たったし、ティッシュにくるんで捨てることにした……。