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熱帯夜
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熱帯夜-1

じっとりと絡み付く粘り気のある暑さが、何故かとても心地好かった。

「まてよぉ〜!俺が最初なんだよ!」
「悔しかったらじぶんの力で追い越してみな」
「お前生意気!!見てろよすぐ最初になってやる」
「今に見てろ、最後にわらうのはこのオレだからな!」


それぞれ思いの丈をぶつけ合いながら、河川敷の舗装された道を走る。
興奮して上ずった声がうるさく飛び交って重なり区別がつかず、自分の出した声が分からなくなりそうだ。
もとから道幅は広くない上に自分を含め四人とも自転車に乗っているから、追い越す機会はなかなか訪れない。

俺は前と後ろに挟まれ、進むも戻るもままならない苦境に立たされていた。
せめて最下位であれば追われる苦しさを味あわなくて済むのに、と一瞬弱気な言葉が頭を過る。
そして、すぐにそんな自分を奮い立たせる為に立ち上がってペダルを強く踏み込んだ。

最初になるんだ。
皆を追い抜いて誰もいない景色を見るんだ。
少しでも気を抜いたら弱気な言葉が囁いてくる。それに打ち勝つにはただひとつ・・・
ペダルをもっと強く漕ぐ、ただそれだけだ。他に何も考えず走らなくちゃ。

「どうしたんだよ、みんな。ずいぶん遠慮してるみたいだけど、もたついてるとおいてくぜ?」
「言ったなぁ!絶対まけねぇ!!」

辺りが暗くて最初を走る奴の顔がよく見えない。近くにいるのに、何だか手の届かない所にいるみたいだ。
2番目に走る奴の顔は何となく見えたが、お互い懸命に自転車を漕いでるのでやっぱりよく見えない。
最下位の奴は、振り返る余裕が無くて顔が見れなかった。
それにもし見たら、俺が挑発したと思って一気に追い抜こうとするかもしれない。


ゴールは果たして何処なのか。

そんなものは無い。正しくは決めていなかった。
一番になればそれがゴールだ。前に誰もいなくなって、後ろに続く残る三人を大きく突き放せば勝ちだ。
特に誰かが決めたというわけでもないが、決着がついた時はいつもそうだったから自然と決まった。
俺は、勝ちたい。せめて一回くらいは前に誰もいない気分を味わってみたかった。

夏休み、親に内緒でこっそり抜け出して毎晩の様に開催される、俺達だけの自転車レース。
どんなに蒸し暑い夜でもレースをしてる時は、暑さがなんだか気持ち良かったんだ。


これを最初にやろうと言い出したのは誰だろう。
いつも一番のアキラか、アキラに食い下がってたまに一番になるトシハルだったかな。
それとも、威勢はいいけど大体最下位になってばかりのコウジだったかもしれない。
まだ始めてそんなに経ってないのに、繰り返すうちに言い出しっぺを忘れてしまった。

そりゃ、そうかもしれない。
俺にとって・・・いや多分みんなにとって、大事なのは一番になる事だからな。


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