熱帯夜-2
「待てよ・・・いつも速いんだよアキラぁ、ずるいよ。自転車に何か細工して・・・ハァハァ、くそっ、もう見えない」
今日もアキラの圧勝か。
悔しい。ちょっと前までは並んでたんだぞ。
ずるいよ、いつも急に速くなって引き離しちゃうんだからな。誰も追い付けないよ。
たまにトシハルが追い越して勝っちゃうけれど、俺は二人を追い越せた事は無かった。
「みんな、まだまだだな。たまには俺を、悔しがらせて、はぁ、はぁ、みろよ、けほっこほっ」
「ぜぇぜぇ、息切れてるぞ、かっこつけすぎ、はぁ、はぁはぁ」
「喉乾いた・・・疲れた、眠い・・・」
「さあ、帰ろうぜ。確かこっちの方から来たよな」
がむしゃらに走るから自分達がどこを走ってきたのか誰も覚えてない。
しかしコウジは来た道をちゃんと見ているから、帰る時は頼りになるんだ。
アキラもトシハルも、そしてコウジもみんな背中に大きな水溜まりならぬ汗溜まりを作っていた。
レースしてる間の風はいつまでも当たっていたいのに、こういう時のは生温くて好きじゃなかった。
夢中で走り続けたせいで忘れてた疲れが出て、体に重くのしかかる。
だから遅れない様についていくのが精一杯で・・・
「ちょっと休もうか、なっトシハル。喉も渇いたし」
アキラが自転車を止めて、近くの自販機に硬貨を数枚入れた。
「コウジは麦茶、トシハルはオレンジジュースだよな」
手際良くボタンを押しながら、俺に視線を寄越す。
「んで、キヨシは水な」
終わったらいつもアキラがみんなの分の飲み物を購入する。誰も決まって同じ物を買うのですぐに何を買うのか覚えてしまった。
最初のうちはお金を払おうとしたが、アキラがいいと言うのを何度か繰り返すうちに誰も何も言わなくなった。
もう、ライバルじゃない。
レースが終わってしまえばいつものつるんでる友達に戻るんだ。
「夏休み、短いよな」
「うん。9月一杯まで伸ばしてほしいよな」
「いっそ大晦日まで」
「夏休みじゃないぞ、それ」
それぞれ家に戻る頃にはすっかり夜も更けていて、親にこっぴどく叱られていた。
さすがに何回もやったらいいかげん見かねたのか、夜間は外出禁止にされた。
懲りずに夜中もこっそり家族の目を盗み、電話で話したりはしていたけれど、やがてレースの事は話さなくなっていった−