長い夜 四-1
<結城 真人>
「連絡するよ」
確かに佐伯はそう言った。
だけどあれからもう三ヶ月が過ぎ、春が近づこうとしていた。
正月には戻って来いと実家から再三連絡があり、気乗りしないまま正月休みは実家で過ごした。
いつ佐伯から連絡があるかわからない状態で
遼子は携帯電話を片時も離せずにいた。
実家では待ち構えるように母親から何枚かの写真を見せられ、反応をうかがわれた。
見合いをさせるつもりだったのだろうが、遼子の関心のなさと
誰かからの連絡を待つかのような落ち着きのなさを
母親は敏感に感じ取っていたらしい。
「誰か、気になる人がいるのかい?」
遠慮気味にたずねられた。
付き合ってる様子でないことも感ずいているらしい。
「ううん、そんなことない。仕事が忙しくて・・・大変だけど
やりがいがあるのよ。まだしばらく、結婚する気にはなれないわ。母さんたちは心配するかも知れないけど・・」
母親は肩を落としながらも、今時は・・そうなんだろうかね
と適齢期や婚期など関係ない時代を憂いつつ納得しようともつとめている様子だった。
大晦日から三日間
何もしない実家での正月を終えた。
一人で自分の部屋で過ごす三日を考えると
さすがに寂しすぎて実家があることを感謝した。
それからは仕事も始まり、忙しい日常に追われた。
佐伯の「連絡」から意識をはぐらかせる機会に救われる思いだった。
桜のつぼみが膨らんでいる。
そろそろ 厚いコートは要らないかな・・・
休日は昼ごろまで寝ているため、目覚めてダラダラしていると
夕暮れも早い。
春物が早くもバーゲンを始めたとコマーシャルが急き立てる。
これから春だっていうのにバーゲンって・・・
しかし、職場でもカジュアルな出で立ち、イベント前となると
現場仕事の労働作業着。
何だか、お年頃さえも過ぎてしまった遼子は自分の年を
数えるのもやめてしまった。
そんな遼子もふと、パステルや艶やかな色彩のコマーシャルに
目を奪われた。
服でも買ってみようかな・・・。
そう思い立って、繁華街へと足を向けた。
テレビでやっていたコマーシャルと同じポスターが賑やかに飾られ
春の浮き足立つ雰囲気とともに、体だけ人ごみに流されている。
だけど
足を止めて服を手に取る気分がしない。
ムダ足か・・と、まだ30分も歩かないうちに帰宅することを考え出していた。