長い夜 四-6
「そんなこと、ないです!もちろん、裸を強要するつもりなんてないけど 描きたいんです!」
真人に熱意のスイッチがまた入りだした。
「わかった。いつかね・・。」
なだめるようにフォローして
「私ね、服を買いにきたの。一人で見てたら何だか眺めてるばかりで
せっかくだから、真人君・・じゃなかった 真人のセンスで見立ててよ。時間があれば・・・の話だけど」
「もちろん!いいっすよ。食べたら見に行きましょう」
遼子の思わぬ提案に目を輝かせて、真人はご機嫌に食事を済ませた。
ご馳走をしたいと真人は言ったが、案内役のお礼だからと遼子が支払った。
実のところ、バイトしながら一人暮らしの真人は学費こそ親に仕送ってもらっている身だか
画材やその他、家賃も自分で支払っていて財布の中は乏しかった。
通えば通えなくもない実家の距離で、真人は自分で望んで一人暮らしを始めたからだった。
実家では、生活は出来ても絵を描くためのスペースがない。
今のマンションでもそんな余裕はないのが現実だけど、散らかしていても
寝る場所さえあれば何処にでも横たわって眠れた。
そんな自分空間が真人には必要だった。
真人の見立てた春物の服は、遼子の好みにも合った。
ただ、少しだけ明るすぎる色合いに戸惑いも合ったが、真人は押した。
遼子も、その戸惑いは自分の中の意味のない消極性でしかないことに気づいていたので
思い切ってみることが出来た。
真人の一押しが遼子を解放させていくようだった。
遼子と真人は買い物を終えると一緒に帰った。
同じ駅で居酒屋「ふるさと」を挟んで反対方向の同じ距離ほどに互いのマンションがあることが話のなかでわかった。
「今日、店来る?」
別れ際に真人が言った。
「うーん、どうかな・・・。今またお腹いっぱいだし、わかんないな」
遼子が答えた。
「僕、遅番だから遅くからでも来てよ。・・・・逢いたい」
逢いたい・・・って、今まで逢ってて、これから別れるところなのに・・。
そう思いながらも、逢いたいの言葉に胸がキュンとしてしまった。
「う・・・ん」
ドキドキを悟られまいと濁していると
「メールとか電話とか、していい?」
と
真人がキラキラした瞳で笑顔を向けた。
互いのアドレスや電話番号は交換してある。