長い夜 四-5
年の差はきっと気にならないだろう、真人は年齢よりもしっかりとしている。見かけも大人っぽい。
申し分ない申し出だが、突然すぎて遼子にとってまで現実味のない話のように思えた。
「どうして・・私なんか・・・って言っても、始まらないわよね。人を好きになるのに理由なんてない。」
「そうです。わかってもらえましたか」
真人が視線を遼子に戻した。
遼子の心の中には ふと、佐伯への気持ちが思い出された。
佐伯への思いは熱く切ない。そんな遼子の想いが佐伯に伝わっているのかもわからない。
真人のように真っ直ぐに自分の気持ちを伝えられたら・・・。
遼子は真人の若さと情熱と素直さが羨ましく思った。
真人のように遼子も佐伯に真っ直ぐに伝えたなら、佐伯は何と言うだろう。
佐伯と遼子の年の差は真人と遼子どころではない。
佐伯から見た遼子は、それこそ娘のような子供のような存在なのだろうか。
あの優しさは、暖かさは、そういう意味でのものでしかないのか。
真人の真剣な眼差しの前で、遼子は佐伯と自分のことに置き換えて考えていた。
しかも 佐伯には妻がいた。
今の生活環境では妻の存在感は感じられないが、佐伯自身がはっきりと妻だと答えた、あの写真の美しい人が。
「遼子さん」
突然名前を呼ばれて 我に返った。
「俺、やっぱりこういうところガキですよね。自分勝手にガムシャラ言って、遼子さんには突然のことで。すぐに返事して欲しいなんて無茶ですよね」
「ううん、私のほうが鈍すぎて真人くんを困らせたみたい。付き合うかどうかって、はっきりとは答えられないけど、真人くんのことは素敵な男性だとおもう。年下だけど、しっかりリードしてくれたし、料理の好みもバッチリだしね」
笑顔で答えた。
「そっか、そうですよね。俺 焦りすぎ ヤバイ」
真人も照れ笑いをしながら、気を取り直して水のおかわりを注文した。
「ところで真人くんは・・・」
「真人でいいっす。店でもそう呼ばれてるし」
「でも・・・。私はお店では・・・」
「あ、プライベートな時だけでいいです」
「ん、わかった。 真人は今日は何を買ったの?」
大きな袋を隣のいすに置いていた。
「これですか?デッサン用の画用紙とカラーペンを何本か買いました。あ、こんど 描かせてくださいよ 遼子さん」
「わたし・・?私なんか絵にならないわよ。もちろん、ヌードなんてムダよ?塗り壁みたいなぺチャパイなんだから」
自虐ギャグのつもりで軽く言ったものの、後悔した。