長い夜 四-3
「そういえば・・・ぺこぺこ」
笑顔で了承を伝えた遼子を見ると
大げさにもガッツポーズを見せて、真人は遼子の手を掴み歩き出した。
「ほら、急がないとランチタイムがあるでしょ?」
言い訳のように言い切ると、つないだ手を引き寄せるように足を急がせた。
真人のおススメのお店は、混雑した大通りから少し外れた穴場とも呼ばれるところにあった。
静かな細い通りにあるのだが、リピーターも多いかして
十分に繁盛している。
二つ三つ残されていたテーブル席の一つに案内されて
真人に注文を任せた。
というよりは、真人は遼子の食の好みをよく知っていて、
勧められるものに意義がなかったのだ。
「夢みたいだなぁ・・・。現実かな これ。遼子さんと食事してるなんて」
真人は遼子から目を離さない。
遼子は見つめられることの気まずさもあったが、周りの客たちが
好奇な目で見るのではないかとヒヤヒヤしていた。
「ちょっと・・・真人くん・・・勘弁してよ。食べずらいよ」
真人の視線は一向に外れない。
「気にしないでいつもみたいにたくさん食べてよ。僕、遼子さんが美味しそうに食べるの見るの好きなんだ・・・」
「・・・・えー・・。真人くん、いつも私を見てたの?まさか」
遼子は年上の余裕で真人の巧みな言葉には反応しない。
「気づかなかったんですか?俺、かなり遼子さん見てました。ほんと、ニブイんですね」
「悪かったわね・・・。あー、でも これホントに美味しい」
「僕のも食べていいよ。 これもまた、きっと遼子さん好みだから」
「そんなに食べられないわよ」
「大丈夫、遼子さんが残したら僕が食べるから」
そういえば、真人はあまり箸を進めていない。
そもそも、ずっと遼子から目を離さないのだから。
「遼子さん、彼氏いるんですか?」
料理を遼子のほうへ押しやって、空いたスペースに肘を着き、あごをのせて熟視体勢で覗き込む。
「あのね、真人くんとやら、イヤミな質問は失礼よ」
チラッと視線を真人に向けて、また黙々と食べ始めた。
「僕じゃだめですか?」
「何が?」
次はどの皿に箸を運ぼうかと料理しか見ない遼子に真人は姿勢を正してからドンッとテーブルを軽く叩いた。