〈価値観〉-1
新緑に萌える雑木林に囲まれた、田舎の某高校。
昼休みが始まり、校舎内は雑踏に支配されていた。
そこでは、黒の学ランの男子生徒達がふざけあい、純白の半袖のYシャツに、濃紺のベストとスカートの女子生徒達が、楽しげに笑いあっていた。
『あ…あの、鎌田さん……孝太郎が用具倉庫で待ってるって……』
階段を上がってくる数人の女子生徒達に、一人の男子生徒が、すまなそうに話し掛けた。
「………」
鎌田と呼ばれた女子生徒は嫌悪の表情を浮かべ、そして顔を背けて、そのまま男子生徒の横を通り抜けていこうとした。
『あの…孝太郎……』
「煩いわね!聞こえてるわよ!!」
振り向きざまに怒声を発し、不機嫌さを隠そうともせずスタスタと階段を下りていく……他の女生徒達も、後をついて行くように階段を駆けて行った。
「まったく、何回もさ……聞こえてるっての!!」
「あいつの声聞くと、鳥肌立つのよね」
「聞こえるわよ、ウフフ……」
侮蔑の言葉は壁に反射し、階段上の男子の耳まで届いていた。
言伝をしただけで、何故そこまで言われなければならないのか……男子は唇を噛み、教室に戻った。
罵られた男子生徒の名は加藤修二。
さしたる特徴もない二年生。
動物好きな優しい心を持っているが、内向的な性格もあり、その気弱なところを付け込まれ、素行の悪い男子生徒からはイジメを受けており、それは女子達にも伝染していた。
言伝を頼んだ孝太郎とは、中学時代からの同級生。
クラスが違うからか、修二をイジメる事はないが、なにかと用事をよく頼む。
いわゆる“パシリ”である。
特に最近は、言伝の頼みがやたらと多い。
その言伝の相手は孝太郎の彼女。〔鎌田富代〕(とみよ)
身長はさほど高くはなく、髪は少し赤みがかったセミロング。
垂れ目で鼻筋の通った顔が、なんとなくイヤラしさを感じさせ、半袖の制服から覗く二の腕が、柔らかな曲線を描いていた。
それは太股にも当て嵌まり、全身にしっとりと肉がのっている。
学園のアイドルと呼べるほど美しくはないが、ブスと呼ぶほど醜くもない。
修二からすれば、古臭い名前の女子としか思ってなかったが、孝太郎と付き合いだしてから、その〈見る目〉は変わった……。