〈価値観〉-23
『……悪くない?修二君、この女、自分は悪くないって言ってるよ?』
『呆れたな。修二君の大切な女性をバカにしてたのがバレても、それでも謝らないなんて』
『こんなムカつく女は初めて見たよ……』
富代の言葉の揚げ足を取り、悪女のレッテルを強引に貼付け、修二の機嫌を取る男達。
同情したような悲しげな顔を修二に向け、そして、富代へ冷たい態度を取る男達に、修二の心は更に満たされていった。
自分を気遣い、持ち上げてくれる友達も、同じ気持ちを共感してくれる仲間も久しくいなかった修二には、この男達の振る舞いは、なんとも嬉しく、頼もしいものであった。
『そ、そうなんだよ!コイツはそうゆう奴なんだ!正子さんをいつもいつもバカにして……』
握りしめた拳を震わせ、修二は大声で叫んだ。
それは富代を罵倒するというよりは、男達の先程の言葉に同調する意味合いが強かった。その為か、声は楽しげに弾み、表情には薄らと笑みが浮かんでいた。
「バ、バカになんてしてないわ!ホントよ!それにコータが棄てたんじゃないわ!二人は自然と別れたの!!」
明らかに怯えた声で、顔を左右に振りながら、懸命に弁明の言葉を吐いた……真実を知ってもらえれば、自分は許されるかもしれない……小さな〈希望〉に、富代は賭けていた。
『今度は彼氏を庇いますか……』
『ボロボロにされて泣いてたんだぞ?それでも彼氏は悪くないってのか?』
『あんまりだ……修二君も、その女性も可哀相だ……』
何を言っても、男達には通じない……富代と孝太郎は加害者であり、正子は二人の被害者だとの立場は、少しも揺らがない。
ひび割れた蝋燭の仮面の隙間から、大粒の涙が溢れ出した……。
『やっぱり修二君は悪くないよ。この女は罰するべきだ』
男が修二に差し出したのは、細い革を、花のように咲かせたバラ鞭であった。
初めて見る暴力的な責め具に、修二は戸惑いを見せながらも手に取り、それをまじまじと眺めた。
『フヘ…へへへ……』
半分程に開けた口から、気味悪い笑いが零れ、視線は寝転がる富代を見下ろした……相変わらず、自分の無実を訴えてはいたが、耳を貸す者などこの部屋にはいない。
「高校が違って会わなくなったから、それで別れたんでしょ?私は関係無い…あひぃ!?……痛ぁッ!!……痛いぃ!!……」
鞭が空を斬り、蝋の固着している柔肌を打ち付けた。
派手な炸裂音を発てながら、花火のように真っ赤な蝋が飛び散り、それに合わせて富代が絶叫を繰り返した。