〈価値観〉-2
修二の初恋の人……小学生時代から想いをよせていた女性がいた。名前は佐島正子。
切れ長な目、美しい唇……美少女とは彼女の為にある言葉……修二はアイドルに興味を持つ事もなく、一心に正子だけを想い続けた。だが、自分に自信を持てない修二は、どうしても告白出来ず、そのまま中学生活が始まった。
そして修学旅行の時、修二は見てしまった……孝太郎と正子が手をつなぎ、楽しげに歩いているところを。
どちらから告白したのか?
どこまで“発展”したのか?
二人の恋愛がどうなっているのかを知る術も無く、暗い思いだけが修二の心を埋め尽くし、無気力な時期を過ごしていた。
それから数ヶ月が経ち、正子は県内でもトップクラスの進学校へ、修二と孝太郎は、下位の高校へと進学した。高校生活は勝手に始まり、正子以外の女性に興味すら持てない修二は、何時の頃からか、“女嫌いで男色趣味の根暗”のレッテルが貼られ、そしてイジメが始まった………。
『おい、富代に体育館裏に来てって伝えてくれ』
今日も孝太郎は、修二に言伝を頼みに来た。
修二は富代と同じクラスなのもあるが、座る席が富代の一つ後ろなのもあり、席が近いからかもしれない。だが、それよりも、修二は利用しやすいのであろう。
(コイツは絶対断れない)
その顔にはそう書いてあった。
『じゃあな、早くしろよ』
軽く修二を睨み、孝太郎は駆けて行った。
修二(……毎日毎日、俺への当てつけかよ?……正子さんはどうしたんだ?棄てたのか?……あんな女の方が、正子さんより上なのかよ………?)
毎日、修二に言伝を頼んでいる訳ではない。孝太郎が富代を見付けられない時だけ、パシリとして使っていたのだが、“それ”を快く思ってなどいない修二からすれば、毎日としか感じられなかったし、単なる当てつけとしか受け取れなかった。
修二の中で、怒りにも似た異様な感情が生まれていた……だが、やはり断る事は出来ず、ゆっくりと席を立ち、富代を捜す為に校舎内を歩き回った。
修二(あ、いやがった……)
一階の教員玄関前で、富代の姿を見つけた。だが、言伝は必要ない……孝太郎と楽しげに話をし、そのまま外履きに履きかえ、体育館裏へと向かっていった。
修二(クソ……これからキスでもするつもりか?正子さんとも、そんな軽い気持ちでしたのかよ?ふざけやがって……)
昼下がりの陽の光りを受けた富代は、全身が発光しているようにキラキラと輝いていた。それは内面から出る輝きであり、孝太郎の為に、精一杯美しく花開かせているのであろう。