〈価値観〉-14
「あの女、エロい顔してっから、どっかのエロオヤジに拉致られたんだよ」
「アイツ、声低いよな?どんな声で喘ぐんだろ?」
「ちょっとぉ、少しは心配しなさいよ〜」
この降って湧いた事件は、恰好の話題のネタだった。
下級生も上級生も、男子も女子も、楽しげに事件の事を話していた。
心の中では心配している者もいるだろうが、修二の耳に届くのは、富代がレイプされている様を想像し、笑いあう物ばかり。
犯罪に巻き込まれているかもしれない事を、真剣に心配しているのは、仲の良い友人達と、一部の同級生だけだった。
そんな校舎の空気の中で、修二の心に罪悪感など生まれる余地はない。
「場所が分かれば、俺も仲間に入りてえな」
「ヤッてるトコに警察来たら、オマエも逮捕だぞ?」
浮かれ気分の修二に、少し緊張が走った……あの場所が知れたら全てが終わる……修二は体調不良を理由に、そのまま帰宅した。
校門を越えてから、修二は全速力で自転車を漕ぎ、まっしぐらに自宅に向かい、二階の部屋へと駆け込んで、パソコンのスイッチを入れた。
そこには、修二への賛辞のカキコミが羅列されていた。
[遂にやりましたね!尊敬します!]
[君は勇者だ!]
[その勇気に敬礼]
[僕も遊びたいです(ワラWWW)]
修二の顔はデレデレに緩み、何度もカキコミを読み返した。
そして、乾いた唇を舐め、唯一の不安を解消する為のカキコミを始めた。
[昨日拾った捨て犬、みんなが飼うのを反対しています。どこか、誰にも知られずに飼える場所はありませんか?早くしないと連れていかれます。僕はこの犬を手放したくないんです。]
いずれ、あの小屋は見つかるだろう。
何処か〈安全〉な場所に、富代を移動させなければ……修二の願いに、すぐに返信のカキコミが来た。
[犬を飼うのに最適な場所を知っています。住所を教えて下さい。どこかで落ち合いますか?]
自分のカキコミを、相手が本気にしている保証はない。ふざけて書いた可能性もある。が、修二に頼れるのは“それ”しかない。
修二は、大まかな住所と、最寄駅を書き、送信した。
[結構近いですね。今夜中には着きますよ。それまで見つからないように、頑張って下さい。]
修二は安堵の溜め息をつき、感謝のカキコミをし、あの小屋へと向かった。