星空-3
「私は好き。空って広くて大きいでしょ?それが星空だったらもっと好き」
「凛子は星好きなの?」
「うん、大好き」
凛子はこくりと頷く。
「星は私たちを見てる。生まれた時から死ぬまで」
だからおれは星が嫌いだ。おれには出来ないことを平気でするから。
「どうしてそんな悲しい顔するの?」
「…おれは凛子をもう見れないから」
そう。
おれにとって、それは願っても出来ないことなのだ。
もしも、凛子が明日一人の男の元へ嫁がなければ。
もしも、おれが11歳の子供でなかったら、それは叶うのだろうか。
「何ませたこと言ってるの。星が出たら私は必ず空を見上げる。約束する。だから、シオンも約束して」
凛子の手が俺の頭を何度も何度も撫でた。
「シオンは私に元気をくれた大切な人。だから約束して欲しい」
もう一度凛子が囁く。
「…分かった」
明日凛子はこのマンションを離れる。
もう、凛子と会うことは無いだろう。
凛子が悲しまないように精一杯の笑顔を作った。
凛子は表情を読むのが上手いから、おれが涙ぐんでいるのを分かっているかもしれない。
それでもおれは笑った。
凛子も何も言わず、上を向いた。
見上げた凛子の潤んだ瞳に、満天の星空が写っていた。
何も見えないはずの凛子の黒に、金色の星屑がきらきらと浮かぶ。
そう、まるで…。
「凛子の目、綺麗。キラキラしてて星空みたい」
「ありがと、シオン。嬉しい」
凛子がきゅっとおれを抱きしめた。
最初で最後の優しい包容。
おれは星空は嫌いだ。
子供で何も出来ない自分をあざ笑っているようで。
だけど、凛子が好きだというだけで、それは違う顔を見せ始めた。
年齢も生きる場所も違う二人を繋げる唯一のもの。
そしてそれが君の瞳でもあるのなら、おれはいずれ好きになれるかもしれない。
君が好きだと言ったこの満天の星空を。
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