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星空
【初恋 恋愛小説】

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星空-2

春の終わりの夜だった。
孤独と寂しさを常に持て余していたおれは、眠気がやってくるまで街を彷徨ったりしていた。
おれがこのマンションの屋上にたどり着いたのは本当にたまたまだった。
理由なんて無い。
ただ、そこに行ってみたかった。それだけだ。
先客がいることにはすぐに気付いた。
その女性(ひと)は薄いカーディガンを羽織り、何を見つめるでもなく髪を風に靡かせていた。
その姿があまりにも儚く一枚の絵のようで、おれはその場に立ち尽くしたまま、しばらく身動きが取れなかった。
だから、彼女がゆっくりとこちらを振り向いても、魂が抜かれたかのように彼女を見つめ続けていた。

「…誰?」

彼女の声にビクンと体がはねた。
小さな鈴がちりんと鳴ったようだった。

「こんばんは」

一瞬、おれはきょろきょろと辺りを見渡した。

「…おれ?」

そして、おれと彼女以外この場にいないことを確認して、自分を指差し間抜けな答えを彼女に返してしまう。
しかし彼女はそれでも嬉しそうに頷くと

「あなた以外誰もいないような気がするけど」

と微笑んだのだった。




自分の名前は凛子だと彼女は言った。
おれも名前を教えた。
それ以外特に何を聞き合うでもなく、二人で並んでぼうっと眠った街を見つめた。
凛子は名前以外何も聞こうとはしない。
そちらの方がおれは都合がよかった。
無言の空間がおれたちを包む。
だけど不思議とその沈黙が心地よかった。

「星出てる?」

凛子が唐突に口を開いた。

「え、星?」

上を向く凛子。その瞳はぱっちりと開かれている。

「明日は雨みたい。雲で隠れたりしていない?」

おれは彼女と同じように上を向く。
星の姿は確認出来ない。彼女が言うように、雲が出ているのかもしれない。

「星は出てない。真っ暗だ」

「そう、やっぱり」

「真っ暗で空の高さが分からない」

「高さ…」

凛子が驚いたように呟いた。

「高さ…うん、素敵。見える気がする」

そして凛子はおれの方を見て笑った。
だけどその澄んだ瞳はどこか遠くを見つめているようで…。
その時、おれは彼女が盲目なのだと知った。




またゆっくりと彼女の手がおれを包む。

「シオンは空好き?」

「……好きだよ」

「嘘」

少し唇を尖らせたがその表情はすぐに綻んだ。


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