想-white&black-M-1
ふと目が覚めると見慣れた天井がそこにあった。
(私……、どうしたんだっけ……)
目覚めた直後ではっきりしない頭をどうにか巡らせて思い出そうと試みる。
ああ、そうだ。
誰が来るかも分からない教室で楓さんに抱かれたのだった。
私はそのまま意識を失ってしまったようで、ここに帰ってくるまでのことを覚えていない。
ただ誰かが側にいてくれたような気がしたのだが、それも思い違いだったのだろうか。
誰かに手を握られていたような……。
もしかすると安心できる何かに包まれている夢を見ていただけなのかもしれない
そんなことをぼんやり考えているところに遠慮がちにドアが開かれる音が聞こえた。
「花音様、気が付かれましたか?」
「瑠海さんに、瑠璃さん……?」
私が目が覚めたのに気付いた瑠海さんと瑠璃さんが安堵した表情で側に来てくれる。
「ご気分はいかがですか?」
瑠海さんの言葉に何とか笑ってみせる。
「うん、大丈夫みたい」
身体を起こそうとすると二人が背に手を当てて起きあがらせてくれた。
「お腹空いたりしていませんか? 何かお持ちしますわ」
「本当? ありがとう、瑠璃さん。そう言えばどれくらい眠ってたんだろ」
既に窓にはカーテンが引かれているため様子は見えない。
「楓様と花音様がお帰りになられてから一時間くらい経ちますわね。もう少しすれば外も暗くなるでしょう」
瑠璃さんが壁に掛けてある時計に目をやる。
楓様と私という事は、私を連れて帰ってくれたのは楓さんなのか。
他に人がいなかったのだからそれも当然かもしれないが、また迷惑をかけてしまった。
「あの、楓さんは……?」
「楓様はお帰りになられてからご自分のお部屋で理人さんとお仕事のお話をされていますわ」
それではやはり誰かが手を握っていたのは気のせいだったのだろう。
淡い期待が一気に萎んでしまったような気分になる。
もしかすると、側にいてくれたのは楓なんじゃないかと……。
あの人がそんなことをしてくれる訳がない、分かっていたはずなのにどうして期待などしてしまったのか。
だが思わず聞かずにはいられなかった。