湿気-1
雨が嫌い。
梅雨なんて大嫌いだ。
湿気が半端ない。
俺の部屋は木造のボロボロアパート。
ただでさえ陰気臭い外観なのに、去年うちを囲むようにマンションが建設され陽当たりはほぼゼロになった。
昼間でも電気をつけないといけないくらい暗いし、しかもそのマンションは陽当たりだけじゃなく風通しすら奪ってしまった。
錆び付いた階段に朽ちかけた茶色いトタンの壁。ただでさえ悪かった見た目は、一日中日影になったおかげで陰気臭さが倍増。
今日も雨。
窓も開けられないからさっきから湿度が上がり続けている。
じめじめって音が聞こえてきそう。
自分がキノコかカビにでもなった気分だ。
…菌類じゃねえか。
胞子で子孫繁栄ってか。
そりゃ楽でいいな。
って良くねぇよ!
「…はぁ」
口を開けば溜め息。
部屋が湿気てるのは雨だけじゃなくて俺が吐き出す二酸化炭素も原因なのかな。
呼吸もするなってか。
仰向けに寝転んでると、背中にカビが生えそうだ。
…………死んじゃおっかな
漠然とそんな事を思った。
現在25才。
就職と同時に一人暮らしを始めて3年になる。
ただそれだけ。
毎日同じ事の繰り返し。
たまたま入れた会社。生活の為だけに起きて出勤して、終わったら帰って寝る。
そんな生活のどこに意味があるんだ。
そりゃ人並みに楽しみだってあったよ。
あったけどさ…
数時間前、朝起きてすぐの事だった。
『あたし、プロポーズされた』
ずっと好きだった子から久し振りにかかってきた電話がそれ。
晴陽(はるひ)は、今まで出会った人間の中で一番気が合う子で、びっくりするくらい思考回路も同じで、一緒にいるのが楽で…、だから友達関係が壊れるのが絶対嫌で、気持ちなんかこれっぽっちも伝えずに地元に置いてきた。
『あ…、そうなんだ』
そんな返事しかできない。
俺の片思いだったから。
俺は彼氏じゃないから。
『相手、どんな奴?』
本当は全然興味なんかない。
『某企業にお勤めの32才』
『ふぅん』
『合コンで知り合いました』
『そこまで聞いてねえよ』
携帯の向こうから雨音が聞こえる。