『溺れる魚』-5
第五章〜囚われの心〜
『彼女、何だって?』
部屋に戻ってきた恵に、俺は尋ねた。
『敬に近付くなって、寝言で私の名前、呼んだって…』
俺に顔を見せないまま、自嘲気味に答える。
『バカ…ホント、バカだよ…』
誰が?
うわごとみたいに呟く恵の肩が震えた。
泣いてる?
俺は恵をきつく抱き締めて言った
『俺にしとけよ?俺と付き合えよ!』
くぐもった笑い声が俺の腕の中で響く。
『嫌よ!蛍の恨み買いたくもないしね』
頬に涙の跡を残しながら、ひきつった笑いを浮かべて恵は言う。
『ほ、蛍は関係ないだろ!?』
『あるわよ!京だって気付いてるんでしょ?蛍の気持ち』
『それとこれとは別だろ?!』
蛍の一途な目には確かに気付いていたけど…
『私は好きでもない人の為に嫌な想いはしたくないの!』
一言でざっくりと俺の心を傷付ける。
パフッ……
ソファに恵を押し倒す。
『ワンパターンだね』
一言呟いて、無表情な目を向けた。
初めて、抱いたあの夜と同じ目を―−
2週間前の夜更け、俺は震える指で恵の部屋のインターフォンを押していた。
『いらっしゃ……!!』
にこやかに出てきた恵の表情が俺と認識して固まった。
パジャマの上だけを着た恵は十分に煽情的てら怒りにも似た劣情が俺を支配した。
『誰だと!俺を誰と間違えたんだよ!』
気が付くと俺は恵の胸ぐらを掴みのしかかっていた。
力強くパジャマを引っ張るとボタンが弾け飛び、小振りのおっぱいが目に飛び込んだ。
『恵、好きだ、好きだ…』
繰り返し呟きながら俺はおっぱいにむしゃぶりつく。
甘い香りに酔いながら夢中でピンクの乳首に吸い付き、手で柔らかさを楽しむ。
徐々に手を滑らせ、パンツをはぎ取ると茂みの奥に指を滑らせた。真珠を摘みこりこりと刺激する。蜜壺に指を入れくちゅっという音を聞いた瞬間、俺の意識はスパークして、大急ぎで衣服を脱ぐと、俺の分身を恵に埋めた。
『うっはあはあはあ』
ぐちゅぐちゅパンパンパン
静かな部屋に淫らな音が響く。
『はあはあ…イクよ!受けとめて!』
ラストスパートをかけ射精をした瞬間、俺は恵の無表情な目とまともに目があったのだ。その時気付いた、恵が一言も発せず人形のように俺のするままになっていたことを…
『私には、好きだからって何をしても許される訳じゃない!なんて言う資格ないもの…』
どこか寂びしそうに言う彼女を見て俺は虚しさに襲われた。
俺のしたかったことはこんなことじゃないはずだ。
また、俺は同じ過ちを犯そうというのか?
俺は恵から離れた。恵がソファから起きあがる。
『俺はお前が好きなんだからな』
『知ってるよ、でも多分私じゃなくても良い筈だよ』
『なんで決め付けるんだよ!そんなに嫌かよ、俺が』
また怒り心頭に発しそうだ。
『嫌というより、駄目なんだ』
『愛される方が幸せだぞ?』
懸命にくどいてみる。
『私は愛したいの、たとえ一方通行でも』
凛とした眼差しでいう恵を手に入れることは俺にできそうになかった。