邪愁(その2)-2
「…ほんとうに、美しい脚ですよ…奥様…」
男は私の膝に頬をすり寄せ、やがてその舌は太腿へと向かう。白い腿の表面の滑らかさと内腿の
肌の柔らかさを確かめるように舌が蠢く。私の陰唇につけられたラビアピアスのリングが、すで
に男の愛撫に敏感に感じ、滲みだした蜜液に濡れていた。
男のペニスの赤黒い亀頭は、死んだ蛇の鎌首のように垂れ下がり、ぬらぬらと濡れたような光沢
だけを放っていた。亀頭の色素は斑に模様を描き、幾筋もの細かい皺の刻まれた包皮は、噎せる
ようなすえた臭いを漂わせていた。
そして、黒ずんだ垂れ袋は、ゴムのように伸びきり、果実の腐ったような臭いを放っている。
すでに私の体がゆらゆらと浮遊しはじめていた。朝の虚ろなミルク色の空気がゆっくりと肌を包
んでいく。この男の愛撫によって、夫に吸われ続けた乳首が尖り、小刻みに踊り始めている。
窓から見える原生林と湖水が朝靄に包まれ、ときおり吹く微風が湖水の表面に波をたたせている。
奇怪な野鳥と動物の啼き声が遠くで木霊するが、あたりはどこまでも朝の静寂に包まれていた。
男が私の脚に愛撫を続けるあいだ、私はじっと目をこらしてその風景を眺め続けていた。
やがて男は、縛りつけた私の裸体に覆い被さるようにその浅黒い肌を重ねる。男の胸肌にある疎
らな胸毛が、私の乳房に吸いつく。男は、息を荒くしながら、首筋に絡んだ私の髪をかき上げ、
白いうなじから鎖骨にかけて、厚い唇を這わせる。
でも、太腿に感じる男のペニスは、どこまでも柔らかく萎えたままだった。
男の指が、わたしの靡いた繊毛を軽く撫でる。指先がラビアピアスによって弛んだ淫唇の縁をな
ぞり、肉縁を広げるように爪が啄む。やがて私の花芯が潤み始め、溶け出すように亀裂が弛んで
いくのだった。
…聞いているの、あなた…言ってるでしょう、若い女の青臭い性器がそれほどいいの…
…わたしの性器は、あなたの舌と指を数えきれないくらい受け入れたわ…そうよ…わたしはあな
たに縄で縛られた屈辱的な姿で、あなたに性器を弄くられ、火照らしたわたしの性器に鞭をふり
降ろしたわ…
…陰唇を削がれるくらいの痛みだったわ…もう、桜色なんて綺麗な性器じゃない…あなたの指と
舌と鞭に生皮を剥がれたように、もうすっかり陰唇が垂れたオバサンの性器よ…
…だからなんだっていうの…
…わたしは今でもあなたを愛しているわ…五年間、あなたの帰りを待ち、あなたのために美味し
いお料理をつくり、あなたのために着飾ったわ…あなたと初めてつき合い始めた頃、あなたが
いい匂いだって気に入ってくれたことのある香水も買ったわ…
…その若い女は、鞭で打たれて悦んでいるっていうの…縛られて悦んでいるっていうの…
…どうして、それが愛って言えるの…