Crimson in the Darkness -権與-V-1
ゆっくりと視線を動かして、見えたのは腹から生えた赤に染まった白い腕。あー…クソ……。さっきの馬鹿力女の方か……忘れてた……。
「かっ……は」
腕をズルリと引き抜かれ、オレの身体は意志とは別に地面に崩れ落ちた。口の中に鉄の味が広がり、息が浅く早くなる。そして、ポッカリと穴が開いた腹に手を添えれば、そこから生温かいものが流れ出ていた。
くそ……情けねぇ……
『出てこい! この人間を殺されたいか!?』
背中を思い切り踏みつけられ、男の声が辺りに響いた。人を足蹴にしてんじゃねえぞ。化け物。
それに出てくるなよ……馬鹿ガキ。そう願ったのにやっぱりアイツは馬鹿だ。人の気持ちを無視しやがる。
「……そいつ、殺すな。狙いはおれだろ?」
葉擦れの音と共に茂みから現れたのはあの馬鹿だった。
『ククク……端からこうしていればよかったか。お前は情に脆いらしいな』
霞む視界に映るのはあの馬鹿の……泣きそうな顔。こんなとこで泣くなよ? 痛いのはこっちなんだから。
「うるさい。バケモン」
『我らを化け物呼ばわりか。我らからすればお前の方が余程化け物だがな』
「……」
否定しろ、馬鹿ガキ。相手の言葉に飲まれてどうする……。
「そいつ離せ。もう良いだろ」
『お前を殺したあとに血を啜ってやる。聖職者の血は旨いからな』
クスクスと笑いながら、男の声が降ってきた。すると、アイツはアイツでニヤニヤと笑いやがった。