湿気-1
『hero〜湿気〜』
「ああ、また湿度が増えちまうよ〜」
僕の友人、沢山沢(さわやまたく)が汗を垂らし、そのお相撲さんの様な体格を揺らしながら言った。
梅雨真っ最中で、ジメジメして湿度計の湿度は大きい数を刻んでいる。この地雷火字高校も例外ではなく、暑さは徐々にあがっている。
「汗、止めろ。そうすれば、湿度はあがんねぇから」
僕は言うが、沢山は笑って脂肪をたぷたぷと揺らしながら言った。
「ムリ、ムリ〜。汗、止めようと頑張れば頑張る程、汗出るんだよ〜」
「じゃあ、死ね。死ねば頑張る必要ないぞ?」
「キミは、厳しいねぇ〜。そんなんじゃ、ヒーローになれないぞ」
沢山の周りの机や椅子に湿気が集まり、もはや水浸しになっていた。千葉君や花鳥院君に申し訳ない。
「いや、ヒーローになんかなんねぇし! そもそもなんのヒーローだよ」
そう訊ねたのが、間違いだったと気付いた。この沢山沢はヒーローオタクといっても過言ではないくらい、詳しい。マスクの変身するヒーローも三分間しか戦えないヒーローも敵が必ず巨大化し、味方もロボが合体し倒すヒーローも沢山沢の手に掛かれば、話が終わらず周りが地獄絵図と化す。以前自習の時間にふとその話を振ってしまい、その自習の時間プラスその次の時間まで伸びしまいには、さらに昼休みの時間さえヒーローの話で終わってしまったのだ。
沢山沢にヒーロー話は火に油を注ぐような自殺行為である。クラスでは暗黙の了解になっているのだ。
「こんな季節にピッタリ。湿気マンだ〜!」
「はいはい」
僕はもう右から左へ受け流す事にした。まともに聞いてたらおかしくなる。
「東北ローカルでやっていた『湿気マン』! 湿気が発生するとやってきて、湿気を取ってくれるというとても優しいヒーローなのだ〜」
まるで自分の事のように沢山は胸を張った。
「『湿気マン』はカビだって取ってくれんだ〜。凄いだろ〜」
流していたが、気になる点がいくつも浮上した。ヒーローって敵と戦うんじゃないか。湿気と戦っている暇があるのか。
「『湿気マン』は身体に内蔵された除湿器で湿気をどんどん吸い取って、スポンジでカビを取るんだ〜。今までのヒーローを覆した良いヒーローだったよ〜」
それはヒーローと言えるのか。地味過ぎないのか。
「『湿気マン』が来る事を考えると、湿気も良いんじゃない〜?」
「んなわけあるか!」
その後、僕が全力で沢山沢をぶっ飛ばしたのは言うまでもない。
End
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