Crimson in the Darkness -権與-U-7
「速いっ」
腰のホルスターから銃を引き抜いたが、引き金に指を掛け時間がない。寸でのところで振り下ろされた爪撃を交わして、全力で蹴り飛ばした。
…………はずだった。だが、見事に視界が反転。
女に足を引っ掴まれて、逆に投げ飛ばされた。受身を取って、地面に強打されることは無かったけど、こんなのは初めてだ。しかも、銃が弾みでどっか行った。始末書モンだな。
「っ なんつー馬鹿力だよっ」
華奢なナリの割にはスゲェ腕力だな、オイ。
『人間…………アイツの匂い、する……』
おいおい……冗談だろ? 背筋に嫌な汗が流れる。
「人語を喋る魔物って…………」
『知ってるか? ヴァンパイアというものを』
一際低い声が後ろから響いた。
あり得ない……わけじゃない。でも、ヴァンパイアは激減した種族だ。しかも、この日本はテリトリー外の筈だ。
「チィっ 冗談っ 高位魔物だと!?」
『安心しろ。まだ殺さん。あれは何処だ……?』
背後に現れたもう一人の存在に気付かなかった。振り返ると背の高い金髪の赤目の男が立っていた。上品そうな英国紳士のような印象を持たせる雰囲気がまるで“そのもの”。そのくせ、それに似合わず禍々しい気配を漂わせてやがる。
「『あれ』ってなんだ? ま、知ってても教えねーけどなっ ぐっ…っ」
情けないことにこっちから手を出す間も無く、片手で首を掴まれ、軽々と持ち上げられた。日頃の寝不足が祟ったなんて言い訳にもならねえ。
『あの、赤毛の匂い。お前、一緒に居たな?』
優雅に笑いながら、男のヴァンパイアは首を小さく傾げて見せた。