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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森-6

暁。
考えまいとするのに、次々と姿や声が浮かんでくる。

暗夜が最初に出会ったのは、暁の祖母、黄昏だ。

足に傷を負っていた暗夜を介抱してくれたのが、黄昏だった。


百合のように美しく、そして何より甘美な香りが暗夜を酔わせた。


「ねえ。お前、あたしと取引しないか」

ある日、暗夜の包帯をかえながら、黄昏が突然持ち掛けた。

…取引。

「お前は、弱い。その足で森に帰れば、また忽ち他の妖にやられてしまう」

暗夜は生じてからまだ、幾年も経っていない。
妖の森で生きる力量、己の身を守るに足る力は十分ではなかった。
足の傷も他の妖からつけられたのだ。


「だからさ、暫くここにいな。この屋敷は、特別な結界が張ってあるから招き入れない限り、妖は入ってこない」


…。


「しかも、あたしは贄だよ。妖が贄の側にいると、通常より早く妖力を上げることが出来る」


強くなれる…。


「そうだ。その代わり、お前はあの子の守りになる」

そう言って、黄昏が指さした先には、白い清潔そうな布に包まれた何かがあった。


途端に、それが大声で泣き始めた。


黄昏が抱き上げ、ほらと言ってみせる。
布の中には、小さな人間がいた。


「暁だよ」


黄昏がそっと暗夜の前に暁を横たえた。
ふんふんと鼻面を近付けると、甘ったるい匂いと黄昏と同じ、何かを狂わせるような蠱惑的で美味しそうな香りが微かに漂っていた。

「あたしが育てたいんだけど、ちょっと無理みたいだから」

―思えばあの時、黄昏は死を予期していたのだ。

「暁は賢い子になるよ。でも一人にするのは心許ない。お前、そばにいて助けてあげてくれないかい?」


小さな暁は暗夜がみえているのか、大きな黒い瞳で暗夜をじっと見つめていた。



暁が贄でなかったら、何か変わっていただろうか。
そんな、益体も無いことを考える。


贄だから惹かれているのか、そうではないのか、暗夜はよく分からなかった。


でも、暁のことを考えると、今までに感じたことのない重く鈍い痛みが胸に走るのだ。


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