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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森-5




日が完全に上ると、暁は意を決して森へと入った。


妖は夜の支配者。
明るい昼間は身を潜め、大抵は眠りについている。


暁は暗夜を探しに森へと分け入る。


もう一目だけ、暗夜に会いたかった。
例え、どうしようもなくとも、最後に一度だけ。

鬱蒼とした森は日が上っていても、薄暗い。
だが、所々では木漏れ日が差し込み、夜のような不気味さはなかった。

鳥が明るく声を上げ、小動物たちが暁の傍を駆け抜ける。

こうしていれば、何処にでもあるような普通の森だ。
とても、夥しい数の妖が潜んでいるようにはみえない。

当然だ。
通常、人に妖はみえない。
―贄を除いては。


暁は幼い頃から、人でないものがみえていた。
恐ろしいもの、異形のもの、美しいもの。
妖は多種多様で、しかしそのどれもが人とは異なる姿だった。

暁は不思議と恐れなかった。それは己の贄としての血のせいか。
それとも、妖の暗夜が守りをしてくれたからか―。


お産がもとで母が亡くなり、祖母と過ごした。
祖母が居なくなると、暗夜がいた。


暗夜。
黒く、艶やかな毛並みの暗夜は温かくて、寒い冬の日はよく一緒の蒲団で眠った。


これからもっと寒くなるというのに、どうしたらいいのだろう。


「暗夜―!」
暁は力の限り叫んだ。
だが、その声は薄暗い森の奥へと吸い込まれただけだった。




暗い森のなかで、身を隠すように暗夜は微睡んでいた。


屋根のない場所で、休むのは久しぶりで。
けれど身体を擽る柔らかい草が心地よい。


妙に身体が軽く感じる。
―暁がいないからだ。


蒲団が冷たいと言って寒がるから、暁の横に潜り込んで一緒に眠った。
身体をぴったりとくっつけて、暁は暗夜を抱くように眠るから、温かいが少し重かった。
でも、その重みが暗夜は嫌いではなかった。


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