死神のイメージ-2
「また平子君見てた〜。奈緒、ラブラブ光線出しすぎ」
「はぁ?黒板のラクガキ見てたんだけど・・・」
「何にも書いてないじゃん。ウソつくの下手〜。バレバレだよ」
悪乗りして私の顔を携帯で撮ろうとしたから取り上げてやった。
そんなつもりで見てた訳じゃない。どこに行くのか気になっただけだから。
尚志くんは話す人を虜にしてしまう魔法使いの様な存在で、男女を問わずファンは多い。
だから、仮に・・・もし仮に好きになったとしても、ちょっとライバルが多すぎると思う。
数えきれない視線を集める人がたった一人だけに視線をくれる、そんな事は有り得ない。
今こうして微妙な距離でこっそり見守っている間も(友達にはばれたけど)彼に話し掛ける生徒が後を断たない。
でも、決して嫌な顔ひとつせずに話を真剣に聴いて、真剣に可笑しな発言をする。
そういえば、どうして尚志くんはあの日私に話し掛けてきたんだろう。
彼は消極的というわけでは無いけど、自分から誰かに話し掛けたところは見た記憶が無かった。
(まさか・・・・・・)
ふと胸の奥、心の海に生まれた淡い小さな期待。
何故私を選んだのか。初対面なのに。
初めて会う人は、クラス単位だから、私を抜かしても三十人は越えているのに・・・
(もしかして尚志くんは私のことを最初から・・・)
一度湧いた期待の泡は思考を弾ませ、都合のいい方角へと加速していく。
どこにも保証は無いのに私を好きなんだと決めつけて、告白から始まる妄想が、油を浸した紙に着いた火の様に広がって・・・
ある日、トイレから戻ろうとしたら、尚志くんが近づいてきた。
最初は近くに友達がいるんだろうと思い、まさか私に話があるなんて思おうとはしなかった。
自由気儘に妄想しているくせに現実ではクラスメートのままで、先に進めない自分にいつももやもやしていた。
「仲澤さん、放課後何かご予定はお有りですか」
・・・な、か、ざわ、さん。
それが私の名前だと思い出すのに何秒か掛かってしまった。
だから、返事をするのが更に遅れてしまい・・・
「あ、ありません。何にも、白紙です」
いつもの冷静な口調に聞こえた。
私は対照的にしどろもどろで、言葉の発し方すら覚束ない。こんなんじゃ笑われちゃうって思う程、呂律が回らなくなりそうだ。