秘密-1
四月になり、私は保育士として働きはじめた。
毎日が慌ただしく、失敗の連続だった。
だけど、子どもたちの笑顔や寝顔を見ると、嬉しく幸せで、この仕事で良かった!頑張ろう!と思えた。
そんな八月始めの金曜日のこと。
「いてて…」
お昼休み、私が職員室に向かいながら腰をさすっていると
「何、妊娠した?」
後ろから、隣のクラス担当の同期が聞いてきた。
「ちっ違うよ!もとから腰痛もちなの!」
「あはは、冗談だよっ!でもホント、妊娠すると腰痛くなるみたいだよ。私のお姉ちゃん、今妊娠してるんだけど、妊娠がわかった頃から『腰痛〜い!』ってずっと言ってるの」
「お腹おっきくなってくると体勢的に腰に負担がかかるから痛くなるのわかるけど、妊娠初期から痛いんだ?」
「うん、子宮が大きくなるから押されて痛くなる?とか言ってたよ」
等と話しながら、同期と一緒に職員室に入った。
その日の夕方。
子ども達がいなくなった教室で、私一人明日の準備をしていた。
(さて、そろそろ職員室に行くかな)
そう思い、立ち上がった時
「う゛っ…!」
急に気持ち悪くなり、廊下にある水道まで走った。
吐いたのなんて数年振り。
(カゼかな?
でも熱はないし、咳も鼻水も出てない…)
その時、昼間言われたことを思い出した。
『妊娠した?』
思い当たる節がないわけでもなかった。
(でも、まさかそんなこと…)
心の中で否定しても、一度生まれた不安は消えなかった。
(最後に生理が来たのいつだっけ!?)
手帳にメモしてあるので、急いで確認した。
(予定日より二週間遅れてる…)
もとから不順で、あまり気にしてなかったんだけど…
胸が騒いで仕方なかった。
その日の夜。
仕事帰りに買った検査薬を持ってトイレに入った。
(右の窓に縦線が出たら検査終了。
左の窓に何も出なければ陰性。
縦線が出たら陽性)
私は心の中でそう何度も繰り返し、検査をした。
右の窓に縦線が出た。
『検査終了』
左の窓には……
…縦線が出た…
私は説明書を何度も読んだ。
何度も何度も…
結果は…『陽性』…