虹-3
「よし虹太!ここ掘れ!」
「へ!?」
はぁーはぁーと肩で息をする。
「やぁもぉ、どんだけチキンだよ。早く。間違い無いから」
姉ちゃんが腕組みをして、つま先でトントンと場所を示す。
「や、だってここは…」
「は?何?」
「だってここ…」
「いーから。ホレ、ここね。さっさとやる!」
キシシッと姉ちゃんが悪戯っ子のように笑った。
俺は仕方なくしゃがみこんで、そっと枯れ葉を掻き分けて行く。
呼吸はますます荒くなる。じんわりと身体中に冷や汗をかいているのが分かった。
表面を覆う枯れ葉が無くなると、ふわっとした柔らかい土に到達した。
急だったので軍手もなく、俺は素手で掘り進める。
「虹っていいよねぇ。虹太もそう思わない?」
頭上から声が振ってくる。
ポタリと雫が手元の土に染みていった。
俺は泣いていた。
「ね、姉ちゃん、俺もう…」
「…つべこべ言うな、チキン」
相変わらず姉ちゃんは厳しい。一オクターブ低いドスのきいた声でそんなん言われたら、手を動かす他ないじゃないか。
俺に拒否権は無いのだから。
ポタリポタリと地面が湿っていく。
「ねぇ虹太」
姉ちゃんが穏やかに俺の名を呼ぶ。
当時のことが鮮明に頭をよぎる。
ああ、いやだ。
ここにこれ以上いたくない。
今すぐ飛び出したい。でもそんなことしたら、姉ちゃんにぶん殴られる。
だけどもう無理だ。限界だ。
「…姉ちゃん、もう無理だよ」
だって。
だってここは。
この場所は。
ギュウッと目を固く閉じる。
「姉ちゃん、虹大好き!」
「ここは姉ちゃんが殺された場所だから…!」
指に細長いものが絡んだ感覚。
それと同時に俺と姉ちゃんの声が重なった。
一瞬まぶたの裏に浮かんだ姉ちゃんの顔は満面の笑みだった。
ハッとして目を開ける。